星のない世界/横顔  「恋愛」を表す両A面



「星のない世界」というタイトルの印象だけでは、真っ暗闇の世界にいるという絶望と悲愴に塗れた悲恋の曲と思ってしまいがちだが、勿論そんなことはない。

 〇七年八月二十日・二十七日付オリコンスタイルで、aikoはこのタイトルの意味をこう説明している。「星のない暗闇の世界にいたとしても、絶対に見つけられるくらいの気持ちであなたを思っていますという意味ですね」と。
 また彼女は「嫌なことを想像したときに切なくなるということは、やっぱり好きなんだと認めないといけないな?」「好きで切ないという感覚が一番大きい」と発言している。この発言が、当然、「星のない世界」を解く鍵であることはお解りだろう。

 歌詞全体を俯瞰し、同時に彼女の「好きだから切ない」(発売当時のnonnoインタビューより)というテーマを考えてみると、この曲は「恋愛の喜び」「その反動から来る切なさ(あるいは恐怖一般)」が表裏一体を成した曲なのだということが自ずから明らかになってくる。
 前者をA、後者をBとするならば、この曲はAがBに勝っているが、aikoは「幸せと切なさのバランスをとって歌うのが難しい」とも言っているので、ともすればBがAに勝ってしまうこともある、非常に危ういところに位置した曲である。
 だが、Aを表す歌詞の輝きの素晴らしいこと、恋愛の愛しさ、幸福が溢れていることは、他の名曲に引けを取らない。それはラストの大サビ直前の「本当の恋を初めて知った」を筆頭に、「とても大事な宝物をあたしはやっと手に入れたんだ」「昨日より少しだけ多めにあたしの事を考えてほしい」「想いが動いてゆく音を駆け抜ける時の中で聞いた」等の端々に込められている。
 一方、「胸が病みそうで不安に溺れそうになったら」「心の底はいつも一人だと思ってたから」「強く壊れぬように」などのBを表すフレーズは、そのAと隣り合わせになっている。このことからも、繊細なガラス細工のような「好きだから切ない」という命題を十分表していると私は思う。




 では両A面として「星のない世界」と同じく発表された「横顔」はどうなのだろうか。
「星のない世界」が「好きだから切ない」=「恋愛っていうものは切ない」を意図して作られているなら、横顔はその逆ベクトルを突っ切っている。「恋愛というものは切ないけれどやはり楽しい」そういう具合だ。「恋をするっていうことは切ないけれども、辛さや切なさに勝る楽しいっていう気持ちを伝えたかった」とオリコンスタイルインタビューでaiko自身明言しているので、それは間違いないだろう。
 aikoが言うような「辛さ」「切なさ」は、冒頭に現れる「些細な些細な小さな傷」が具体例だろう。この曲は、「星のない世界」と同じようにAとBが隣り合っているのだが、ことごとくAがBを突き飛ばしている。
「躓いても」の次に「恋をした」、「切ない」の次に「愛しい」、「些細な些細な小さな傷」から溢れてくるのは「あなたの名 優しく強い目 指 髪全てに気付かされる」愛しさであり、「辛い時があっても」「輝く術も知ってるはず」と自分を鼓舞する。まさに、aikoが言ったテーマを曲全体で強く打ち出しているのである。


 恋愛という座標に原点があり、そこから切ない方面(便宜上マイナス)に寄ったのが「星のない世界」で、楽しい方面(便宜上プラス)に寄ったのが「横顔」であるのは、もうお分かりであろうかと思う。しかし、プラスとマイナスだからといって、違うものではない。そのどちらも「恋愛」に括られる。「好きだから切ない」「辛いことがあっても好き」すべて恋愛の様相である。
 この二つの曲はどちらも「切なく、愛しい」という恋愛の二律背反を描いた作品であり、両A面として発表されたのは至極当然の流れだったと言えよう。


 二つの曲を聴き合わせることで、aikoが掲げる「恋愛」の真理に、リスナーは到達できるかもしれない。そしてふたつの曲を聴き終わった後に待っているカップリングの曲名は、そのものずばり、「恋愛」である。

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