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光線上のあたし -aiko「Yellow」読解-



■はじめに
「Yellow」は九枚目のアルバム「BABY」の九曲目として世に発表された曲である。「BABY」自体とても攻める姿勢に溢れたアルバムであり、「baet」「鏡」「指先」「ヒカリ」など個性豊か、アグレッシブにしてシャープな曲が連なる中、アルバム後半へ繋がる位置にある「Yellow」はバラードに近いミディアムテンポの一曲で、陰陽で言えば「BABY」中の陰に当たる曲である。私は、どちらかと言えばじっくり曲の世界に浸れると言う意味で大人しい曲の方が好きなのだが、この「Yellow」も例外でなく好きであり、やかましい「BABY」の中に於いて箸休め的なポジションにあると思う。
「今回のアルバムは全体的に外を向いている曲が多いんですけど、この曲に関してはどっちかというとちょっと内寄りですね」と、この曲についてaikoもまた、Exciteミュージックのインタビューにてそんな風に答えている。曲が出来た経緯については、「お家で、ほんとにサラッと作ることが出来たんやけど、振り返ってみると、もうこんな曲は絶対に出来ないなぁってすごく思えました。すごく細~い光の線が射している感じがしていたので、それが曲がらないように、大切に作っていった気がします」と話している。「Yellow」と言う、歌詞中には出てこない色名のタイトルについては、「フワッと浮かんで、普通にこのタイトルにしてたんですよね。多分、パキッとしていて忘れない言葉だし、自分の好きな色が黄色なんで、これが出てきたんだろうなって思います」とコメント。これを書いている私は、黄色はあまり好きな色ではないのだけれど、「BABY」のカラートレイがまさにaikoの言うような「パキッ」とした黄色であるので、その影響で「Yellow」は何かしら「BABY」の中では特別な存在であるように当時から思っている。が、それは単に印象の話なので、本論には特に関係ない。


■交わらない二人の再会
 そんな「BABY」中で内寄りとaikoもコメントしている「Yellow」は、さてどういった物語の歌詞なのだろうか、見て行きたいと思う。「別れたのに」と言うフレーズが二回も登場するので、別れた後の二人が偶然出会った時の曲ではないか、とある程度は思える曲ではあるがまずは一番Aメロだ。
「あなたと言葉を交わす 端々で愛してるか確認する\不器用じゃない ただ臆病なだけ」「真っ直ぐ言えないのは お互い様だから少し安心する\あなたも同じ気持ちでいるの?\もう別れたのに」と一気に連ねてみた。この曲はBメロがないため歌詞が短く、情報量が少ないため、各々の想像に委ねられるところも多そうだ。先述した通り「別れたのに」と言うフレーズから伺える通り、おそらくは偶然会った「あなた」と「あたし」が久しぶり、と言う感じで言葉を交わしている様子がAメロでは描写されている。別れた、と言うわりには「端々で愛してるか確認する」と言うのは少々首を捻らなくもない。世にある「好きだけど、好きだからこそ別れた」ような二人なのだろうか。「ひまわりになったら」の「あの子」と「あたし」がその例の一組であるが(ラブなフレンド)、この二人もそうなのだろうか。とりあえず、喧嘩別れだったり愛憎うず巻く中で精神をすり減らせた末に別れたような二人ではなさそうだ。「端々で」「確認する」のは、続く「真っ直ぐ言えないのは」でわかる通り、「あたし」も「あなた」も「臆病」であるからで、ちょっともどかしい気もする。もしかするとお互いの臆病さ故に気持ちに自信が持てなくなって、そして別れてしまったのかも知れない。と言うことは、元鞘に戻る可能性もなきにしもあらずだ。
 そしてサビが始まる。「妄想飛ぶ夢の先まで 届くまで届くまで 飛ばして」とaikoの儚い高音が実に心地よく聞こえるところだが、ここで歌われる「夢」の世界とは、思い出や記憶と同じように、現在と現実の干渉を受けないある種の永遠性が保たれた世界であり、不安や罪に対し、安らぎや赦しを与えてくれる世界でもある。「あたし」が妄想を飛ばすのも同じ気持ちかどうかわからない故だろうし、想像ではなく「妄想」と表現してしまうのは、「あたし」にとって都合のいい想像をしてしまうからだろう。そして現実でははっきり相手に愛しているかどうか訊けなくても、(たとえそれが、夢と言う幻に過ぎないものであったとしても)夢の平野にいる「あなた」が笑顔ならばそれが「あたし」にとって正解なのだ。それは安っぽい妥協、都合のいい解釈でしかないのではないか、とちょっと目くじら立てたい気がしないでもないが、あくまで二人は「もう別れた」二人なのだ。偶然接点を再び持ってしまったけれど、本来はもう交わることのない「あなた」。せめて夢の中でだけは報われたいと、何もかもチャラにして優しく笑いたいと思う「あたし」の気持ちをわからない人が、全くいないとは思わない。


■戻るか、戻らないか
 ただ、一番のサビは現在完了を歌っているのではなく「そこでもあなたが笑っていたら」でわかるように「仮定」である。偶然出会った二人の時間はまだ続いている。二番Aメロは一番Aメロの状況がそのまま引き継がれていると見ていいだろう。「あなたの後ろを歩く つかず離れずの距離が今は良い\あなたも同じ気持ちでいるの?\もう忘れられない」と一番よりAメロが短い為、かえってより二人の時間、その瞬間にある切なさの密度が濃くなっている。「つかず離れずの距離が今は良い」と歌うようにたとえ互いに今でも好意が生きているとしても、「あたし」的には今くらいの距離、今くらいの付き合いがいいのだと思っている。「あなたも同じ気持ちでいるの?」と、「いるんだよね」と肯定してしまうのではなく、内心問うてしまうのは、しかし何故か。
 二番サビに移る。「すぐにでも帰れそうだから 好きだから怖いから迷うの\耳の奥で願い呟いた 明日の空が曇らぬ様に」とここも短い。「すぐにでも帰れそう」と言うのは文脈を考えて自ずから、先ほど私も書いたように「元鞘に戻」れると言うことだと読める。だが「あたし」は今の距離感がちょうどいいと感じている。「あなたも同じ気持ちでいるの?」と内心訊いたのは、「あなた」の方は、そう思っていないからかも知れない――つまり相手の方は「帰りたい」と思っているかも知れないのだ。ただ、あくまで「かも知れない」状態だ。全部「あたし」の(それこそ)妄想が過ぎるだけであって、もし「また付き合いましょう」と切り出して「NO」と返されれば、思い切り傷付くのは自明である。「怖いから」と歌われているが、まさにその「拒否」こそを恐れているのだ。確かに一歩踏み出せば関係をやり直せる。私が読むところでは、押しさえ強ければ「あなた」を懐柔することは出来なくないと思う。ただ、「あたし」も「あなた」も「臆病」なのだ。一度別れた事実もあるし、そう長くは続けられない気がする。いっそ「気付かれないように」の「あなた」のように、現在付き合っている彼女がいて、その彼女との絆を示す指輪のようなアイテムでもあれば「あたし」の方だってこんな余計な気持ちを抱いて切なくなることはなかったんじゃないだろうか。「もう忘れられない」と歌うのは、素直になることに心が傾きつつある表れではないか。「明日の空が曇らぬ様に」で二番は終わるが、これが「あなた」の明日を指しているのであれば、その晴天を願うのは「あたし」が「あなた」からやはり離れていくように読めるし、はたまた、「あたし」の明日のことを指しているのなら、「あなた」のことを想って振り回されないように、と祈っているようにも読める。
 そして大サビである。「別れたのに」のリフレインから始まり、「気付いてない訳じゃない 昔の声で話す二人に\胸の奥が熱く焼けそうな あの時を思い出してしまう\あの時を思い出してしまう」でこの曲は幕を下ろす。「気付かれないように」の「あたし」の「気付かないように 気付かれないように」ではなく、「あなた」も「あたし」もすっかり昔に戻ったかのように話しているのに、「あたし」は気付いている。あくまで「あたし」視点の曲なので勘繰るしか出来ないが、おそらくは「あなた」の方も気付いているのではないだろうか。そして気持ちもまた、何となくお互いに察してはいるのではないだろうか。だが曲はこのまま終わりを迎える。別れた二人が再会し、声も気持ちも昔のまま。どうしたって、二人が順調に交際を続けていた「あの時」を思い出さざるを得ない。しかし既に過ぎてしまって失われてもいる時間を取り戻す踏ん切りは臆病ゆえにつかず、ただ「胸の奥が熱く焼けそう」な気持ちを強く鮮やかに想起したまま、余韻深くこの曲は終わるのである。


■葛藤の光の線
 aikoは冒頭に引用したインタビューにおいて、「サラッと作ることが出来た」わりに「振り返ってみると、もうこんな曲は絶対に出来ないなぁってすごく思えました」と語っていた。確かに曲の長さのわりに歌詞の長さは小品と言えるが、ここに詰められている一瞬間の切なさ、想いの深さと複雑さは他を圧倒できるレベルかも知れない。「すごく細~い光の線が射している感じがしていたので、それが曲がらないように、大切に作っていった」とも語っていたが、このaikoの言う「光の線」こそが「Yellow」の根本にあるもののように思える。光の線と言うのは「あたし」が渡る線のことで、それはか細く、非常に渡りづらい。まさしくギリギリのラインを何とか維持しつつ渡っている。それは「あなた」ともう一度関係をやり直すか、否かと言う、この曲が描いている葛藤のメタファーそのものある。しかしながらそのラインを越えたり、あるいは踏み外さないで行こうとする「あたし」の意志こそがaikoの言葉に表されていると私は思うのである。「Yellow」と言う言葉について「パキッとしていて忘れない言葉」とaikoは言っていたが、「胸の奥が熱く焼けそう」な、レモンイエローの如き鮮やかな一瞬に咲く、忘れ得ない感情を上手くこの曲は歌っている。このスケッチの巧みさに、改めて私はaikoに脱帽どころか膝をつきたい気持ちだ。

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