■ずっとずっと好きよ
 曲は最終面に向かう。簡単に言えば一番Bとサビの繰り返しなのだが、この「ボーイフレンド」と言う曲こそが、Bメロで綴られているあたしの迷い込んだ「小さな部屋」なのかも知れない。あなたへの好きの気持ちや、恋が実った幸せ、そして未来への意欲であふれ切っているのは今まで読んできた通りである。リスナーの私達は、ポジティブな気持ちで満ち満ちた彼女の部屋へ、思いがけず招待されているのだ。

 ラスサビは先述した通り一番サビの繰り返しだが、aikoの歌声の盛り上がりが大きく、気持ちがより一層盛り上がる。一番サビでも書いた通り、「宇宙に靴飛ばそう」は動きのある歌詞だし、怖いものなしなあたしの強気が十分に表れている。「あなたがあたしの頬にほおずりすると」は、これはあたしからの動きではなく「あなた」からの動きなのだ。決してあたしだけが突っ走っているわけではなく、あなたもあたしのことがメチャ好きと言うことが十分お察し出来る。いや君達ラブラブか~い! と文体を放り出して二人の肩をバシバシ叩きまくってしまいたくなる。

「二人の時間は止まる」を一種の永遠であると書いたが、このまま二人の時間を記憶の中に焼き付けてしまいたい、と言う意味での永遠でもあるのかな、とも思う。aikoの別れ系の曲でよく綴られる、別れてもなお残る記憶の一つにしよう(「あたしの向こう」の「変わった形のままでもいいからいられたらな」、「赤いランプ」の「アザとなり残る記憶」など)と言う狙いもあるのではないか。最初に「忘れたくないんだ」と歌っていたのもあるのだし──と少し思ったのだが、ここまで読んできた通り、最初から終わることなど全く考えていないような、それくらい強い「好きの気持ち」であふれ切った「ボーイフレンド」に、その狙いは少々似合わないように感じた。勿論aikoのあの性格を考えるなら、少しくらい忍び込ませてる可能性は十分に感じられるのだが、aikoの「何も気にせず書いた」という言葉を敢えて信じて読んでみたい。
 それに、「焼き付けて永遠にしたい」と言う気持ち全てが、別れや終わりを意識して出るわけではあるまい。むしろずっとずっと忘れたくないから──そう、一番で「忘れたくないんだと」と歌われた通り──ずっとずっと残しておきたいから、つまりはあなたをずっと好きでいたいから、そんな気持ちが生まれるのだ。
 もうずっとずっと、二人にはこのままラブラブでいて欲しい。締めの「好きよボーイフレンド」に、その願いと祈りを込めて、私はそんな風に読んでみたい。


■aikoの世界へようこそ
 と、一通り、aikoの代表曲の一つである「ボーイフレンド」を読んできたわけであるが、aiko本人も言っている通り、まだそれほど深く知り合えていない、ワクワクするだけの、夢がふくらむ一方の段階の二人だからこその、明るくポップで清々しい、aikoには珍し過ぎるくらいにアップテンポらしいアップテンポ、上り調子上等の曲であった──わりとマジで、20年後に「青空」や「ハニーメモリー」を歌っている人と同じ人、同じ工場で作られたとは思えない(一応言っておくけど褒めてます)

 話は少し逸れるが、冒頭で筆を割いた通り、この曲で紅白に出たり、アルバムがミリオンを記録したりと、aikoはもはや、地元大阪で深夜ラジオのDJをしていただけの存在では、とっくのとうになくなっていた。完全に全国規模の歌手になってしまっていた。要するに、売れるアーティストの一人になっていたのである。
 歌手としての青春時代、とも書いたけれど、それこそこの「ボーイフレンド」のように、ワクワクするだけ、夢がふくらむ一方の上がり調子の頃に発売されたのが「ボーイフレンド」であり、この曲自体がその当時のaikoを象徴していたかのようにすら、2020年の今の私の地点からは見えてしまうのである。

 話を戻す。しかし、明るさが全面に出ている──影を出さなかったのは敢えてでもないし、そうしようとする意地悪で残酷な意図があったわけでもない。aiko曰く「何も気にせず書いた」のだし、aiko特有のネガティブが入り込む隙間もないくらいに楽しいことを沢山想像して書いたのだろう。それはとても、良いことだと思う。アーティスト──芸術家の生み出す作品が、全て苦悩や葛藤をテーマにしなければいけない、なんて決まりはどこにもないのだから。
 そう、今でこそ、そして私がaikoのファンである程度曲を知っているからこそ言えるのだが、確かにaikoは恋に悩める女子の気持ちをリアルに綴れる作家だけれど、全ての曲がしんどかったり辛かったり切なかったりする必要はないのだ。「ボーイフレンド」のような曲があってもいいのだ。

 と言うか、私はaikoの、何が何でもポジティブにあろうとするところ、堕ちるところまで堕ちても最後にはきちんと立ち直り、前を向いていこうとするところ、希望を決して捨てないところに、本当にいつもいつも、かれこれ二十年近く救われているのだ。──aiko自身ももしかしたら、この「ボーイフレンド」の明るさに救われるところが、あったのではないだろうか。
 だから、そのaikoのポジティブさの表された「ボーイフレンド」が長く愛され、歌い続けられていることは、aikoは私に──私だけじゃない、多くのファンに元気を、希望を与えてくれる、明るくて素敵な人なんだよ、と言うことが、aikoを知らない多くの人に伝わっていることでもあるように思う。「ボーイフレンド」がaikoの代表曲の一曲として挙げられるのは、私としてはとても嬉しいことだなあと、今回読んでみて改めて思った次第である。

 確かにaiko特有の、恋愛の苦悩や苛立ち、切なさ、深さ、苦しさ、恋する女子の重さ、しんどさ、辛さ……と言ったものは感じられないが、aikoを最初に知る一曲として、言うなれば入り口として相応しい一曲だと思う。たとえば、この曲でへ~aikoっていいジャン、と思った人がサブスクでアルバムなり何なりを聴いた時、私にとっての「悪口」のように、エッ、aikoってこんな曲も、歌詞も書くんや……とおののける曲に出逢えればいい。そしてもっともっと「aikoのことが知りたい、他の曲も聴いてみたい」と思ってくれれば、それこそaikoファン冥利に尽きると言うものである。
 言ってみればこの「ボーイフレンド」は、aikoと言う地獄の一丁目なのであ──いや一丁目じゃなくて隣町か、もっともっと遠い隣の市くらいのポジションである。もうちょいネット住民に通じる言い方をするといわゆる「沼」の入り口の浅瀬オブ浅瀬である。しんどくない明るいaikoで慣れてから、愛憎渦巻くaikoの深奥に一歩一歩進んでいってもらいたい。
 そしてやがてはライブに行ったり、あじがとレディオを聴いたりして、曲以外のaikoのパーソナリティに触れていって欲しいものである。その時には、aikoと言う人となりがどれほどの人を救っているかと言うのが、きっと肌で感じられるようになっていることだろうと思う(なんか宗教の勧誘みたいになってきたけど本当のことなので仕方ないね!)


■おわりに
「ボーイフレンド」が世に出て今年で20年。20年!??! である。今年2020年は疫病に見舞われ、aikoの属するエンタメ界は大打撃どころか完全に死滅くらいの勢いでどこもかしこも息の根が絶たれたように見えたし(実際そうなんだが)「ボーイフレンド」が歌われた紅白歌合戦も、今年は無観客での開催になるが(まあ紅白は基本テレビで見る勢なのでお客さんがいてもいなくても、いち視聴者の立場からするとあんま変わらんが……)(今年はaikoも出ないので、めちゃくちゃサミシ~~~)こういつまでもくさくさしてはいられない。今まさに感染の第三波が猛威を振るっているところではあるが、失われた一年を取り戻すくらいの気持ちで冬を、新年を迎えていきたいところである。私も勿論、読者の皆さんもしっかり手洗いうがい等の予防に努めていきましょう。

 aikoもラジオ等で語っていた通り、生活に必要最低限なことばかりしていて、このままで大丈夫なんだろうか? と思うくらい一時期は曲作り、音楽活動から離れていたようだが、自分に出来ることを、と曲を作り始め、精力的にレコーディングも始め、秋にはLove Like Rock 別枠ちゃん2を開催した。
 詳しいことは私はわからないのだが(知っていてもいなくてもいいと思うので)(aikoの口から詳しく語られたわけではないし)信頼していたプロデューサーの千葉氏を2019年に失ったばかりで、この2020年の混迷極める状況にブチ当たったのは、aikoの心労もただならぬものがあったと思うが、そんなことは微塵も感じさせず──でもあじがとやあいこめでは少し弱音も吐いたりしてくれて(もっと弱音言ってもいいんやで!!)──私達を楽しませてくれ、何とか乗り越えて45歳の誕生日を迎えた。

 私も今年は色々あったが(リアルに生活がピンチなくらいお金がない)(過去最高にお金がない)(助けてaiko)何だかんだでaikoに助けられたところが、本当に沢山あったように思う。ぎりぎりaikoには一度会えたが(2月15日のLLR9大阪公演であるが、今考えると本っ当にギリギリのタイミングだった)やっぱり会場で、現地でaikoに会いたい。そんな気持ちが日増しに募る一年だった。
 歌える姿が見れるなら別枠ちゃん3でも4でもいいが、やっぱり早くaikoには現地でライブを開催してほしいなあ、でもaikoの性格を思うに、あと数年は無理かな……と思うと本当にゲッソリするのである。誕生日ページ参照。
 aiko~~! 感染対策さえしっかりしてくれればライブやってもいいんだ~~!! 頼む~~!! あとやるなら配信もやってね!!(チケット取るの無理無理の無理ぽいので)……けど、ちゃんとaikoを信じて生きていきたい所存である。でも正直数年もないって考えるのマジでしんどい無理なので、aikoが早く我慢ならなくなってライブ敢行してくれますよ~に!(言い方~)

 と、なんだかいつも以上にまとまりがなくなってきてしまったが、「ボーイフレンド」稿はこの辺で締めたいと思う。「ボーイフレンド」はポップでもロックでもアロハでもよく歌われる曲だが、今回の執筆に際し聴いていてやっぱり、ライブ行きたいなあとつくづく思ってしまった。
 aikoがいち早く現地ライブを決断してくれることを──まだ声を出すのは難しいと思うので、皆で「ボーイフレンド」Bメロの手拍子を叩けることを祈って、本稿を閉じさせていただく。

(了)



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