■ささやかなエール
 aikoは「5年後あなたを見つけたら」を悲しい言葉だけど前向きであると語っていた。インタビューでも前向きな歌であると話していた。
 確かに、もう以前のように元には戻れない二人である。しかし、背筋を伸ばしてまたあなたに会えた時、その時には「新しい二人」として会えたと言うことでもある。それはaikoの言う通り、あまりにも「前向き」な未来の姿だ。
 そこから新しい何かが始まっていくのも当然あり得る話なのだ。願わくばあなたの方も、この大人になったあたしを受け入れられるようになっていて欲しい。これだけ変わったあたしなら、きっと、もしかしたら……そう願ってしまう。
 あたしの為に、報われて欲しい。そんな風に思う私にも、恋人や大切な人と別れた直後、立ち直れない世界中の人にも、「えりあし」はきっと染み入ることだろう。あらゆる人に贈られる願いと救済、そして明日へのささやかな応援が「えりあし」には込められているのだ。


■Never ending journey
 1番サビで述べたことだが、誰かと別れたからと言って、手痛い別れを経験したからと言って、その人への気持ちを完全に断ち切らなくてはいけない──と言うわけではないのだと、「えりあし」を聴いていて思う。「想い続けてもいい」のだ。きちんと自分の人生を歩んでいけるなら、遠いどこかで大切な人をそっと想っていてもいい。もしかしたらどこかで再会出来るかも知れないし、その時はまた違った気持ちで接することが出来るかも知れないのだ。
 その、もしかしたらやってくる未来に向けて、あたしも、リスナーである私達も、再びそれぞれの旅路を歩いていくことになる。曲も歌詞も物語が閉じる感じがあるのだけれど、終わりではなく、その「5年後」に向けて歩き続けていくあたしの姿を、曲が終わってもなお遠く想うことが出来る。to be continuedだ。「あたしの旅」は続いていくし、終わることのない物語だ。
 今は立ち上がることが出来ず、顔を上げることも出来なくても、いつかどこかで会える時が来る。その時誇れる自分であれるように、背筋を伸ばし、前を向ける自分であれるようになろう。「えりあし」はそんな風に気持ちを少しずつ、ゆっくり変えることの出来る優しいバラードでもある。
 ただの失恋の悲哀に留まらない、前を向いて歩いていくそんな深みのある一曲が、これからもaiko屈指の名バラードとして長く語り継がれ、そして歌い継がれていくことを願うばかりだ。そしてaikoの旅も、まだまだ果てしなく続いていくことも願うばかりである。
 どうかその旅のお供を、これからもずっとずっと続けていきたい。かつて「えりあし」を聴いて泣きに泣いたあの日の秋を思わせる涼しさの中で、その変わらない想いを今一度抱き締めて本稿を終えるとしよう。

(了)



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