■空より来たる運命の人
 曲はいよいよ終わりに向かう。Cメロも印象的で、個人的にはもしかしたら全aiko曲の中で一番好きかも知れない。「届けられるもの全てを両手に抱え/あたし空から飛んで来たのよ」──余談であるが下のフレーズは七七調になっているのでどことなく短歌の趣がある。
 ここの「全て」はおそらく一番の「全て伝わらない」の「全て」と対応しているのだと思う。これまで読んできたことからわかるように、あたしはこのフレーズにあるよう自分の持てる全てで「あなた」に向かっていく。全てを届けて全てを捧げて、と言ったひたむきさが伺えるが、個人的にはそれでもまだ足りない、そう彼女は思っているのではと感じられる。何せ「全て伝わらない」のだし、どこか足りなさが発生するのは必然だ。
 続く「あたし空から飛んで来たのよ」が大好きなのだが、この表現は非常にファンタジーであるし、楽曲の雰囲気も相まって全体を幻想的に演出している。あえてそう言ってみせるのは、どことなく相手にとっての運命の出逢いをイメージしてるような感じもしていっそ厳かな感じもするし、そう読むならば(普通立場的には逆だろうが)あたしが「あなた」にここまでひたむきなのも頷けるものだ。

■何度だって始めよう
 大サビは一番サビの繰り返しだ。二人の時間は短く、ちっぽけなものでしかない。けれどそれ故にあたしは全力で「あなた」をただただ愛していく。この二つのフレーズは一番だけの文脈だと「どちらにしろいずれ終わってしまう」と言う諦めが漂うもの悲しい印象があったけれど、二番とCメロを経て考えてみると、「確かに二人の時間は短い。なればこそ、ただひたすらにあなたを想う、全てを捧げる」と言う揺るぎない強さがあると捉えることが出来るだろう。
 そして「じゃあね木星に着いたらまた2人を始めよう」、と一番同様に来世でもまた同じように恋をすることを約束して曲は終わっていくのだが、ここで私はふと閃いたことがある。このラスサビまで読んできたからこその発想であると思うのだが、ここでの「木星」への誘いは果たして二人の時間の短さに悲しくなったからとか諦めきったからとか、そんな気持ちから出てきたものなのだろうか? そんな「厭世的で寂しげな気持ち」だけがこの言葉を形作っているのだろうか?

 むしろ、むしろあたしはこう思いついたのかも知れない。
「チリのようなものでワンシーンの一秒でしかない? だったら、また次の人生でも二人を始めればいいのでは?」と。

 一番だけで言うのならまだしも、そこに悲嘆はあまりない。とにかくポジティブな転身だ。──もっと大雑把に直截的に書くと、「短すぎて足りないし全く満足出来ていないので、また次の人生でも一緒になろうね」と、実にガツガツ向かっていると言うことだ。強大な想いは悲嘆の色さえ塗り替えてしまう力があるのだ。今までを踏まえて、私はラスサビをそう解釈したい。

■シンプルゆえの重力
 そもそも一番の段落でも書いたことだが、「次でも絶対に一緒になる」と言う自信が全く揺るがないのは強いを通り越していっそ怖いくらいである。それはともかくとして「木星」と言う楽曲に「次の世での再会(再開、もあるか)を確信する」と言う強火の発想があるからこそ、aikoの言う「一緒に死にましょう」だったり「心中してもいい」があるのかなと思うし、感情がどうのこうのと言う話ではやっぱりなくて、ただひたすらに「好き」だけを凝縮し、純正化していったからaikoの中でも「真っ白になる感じ」が印象として生まれたのだろう。
 楽曲の雰囲気がどこか浮世離れしている感じも相まって、他の曲よりも一層「濃さ」を思わせる──のだが、言っていること自体は純粋ゆえにシンプルであり、aikoの曲の中でもそれほど複雑なものは抱えていないように思う。考えてみれば前曲の「それだけ」も「ただあなただけ」の気持ちをひたすらに描写した曲であるし、「木星」もまた難しいこと、雑多な情報、複雑な背景を抜きにしたことでアルバム最終盤の余韻を引き立てていくことに一役買っているのかも知れない。

 ところでこれはあくまで余談なのではあるが、木星と言う天体は重力がとんでもなく強い惑星であることも比較的よく知られている知識である。その重力により様々な彗星が木星に引き寄せられることによって、俯瞰してみると地球への衝突を運よく防いでくれている形になるのだが、今回解釈を進めたことによりこのaikoの「木星」にもそう言った類の、どこか引き寄せられるような「強さ」があると個人的に感じた。あまりライブで披露されたことはないものの、他の曲と一線を画する独特な雰囲気、木星と言う言葉の不思議さ、空から飛んできた、木星に着いたらと言ったような幻想的なフレーズに、密かなファンは多いのではないか? と思う。
 これから新しくaikoを聴き始める人達もまた、どこかのタイミングでこの「木星」を聴き、独特でありつつも強烈な想いが満ちた世界に引き寄せられることを思うと、やはり「木星」はいい意味でどこか末恐ろしい曲だと──いや、ポテンシャルに満ちた曲であるなとふと微笑んでしまうのである。

(了)

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