■落ち葉の解釈
 二番に行く。秋らしい「落ち葉」が登場するフレーズではあるが「落ち葉が足元を埋めて/綺麗だけど邪魔で嫌いで」とあるように、「綺麗だ」と「邪魔だ」、相反する感情が綴られている。あたしの行く足を鈍くさせる「落ち葉」とは何なのだろう。
「二人の恋愛以外のありとあらゆる物事」と言う読みが可能なような気がする。aikoも含め我々は恋愛だけで生きているわけではないので、日々様々なことを考える必要があるのだが、そういう生きていく上で生じる色々なことは、「二人のことしか考えたくない」と考えている「あたし」にとってはものすごく邪魔で面倒なものでしかない。それですっぱり俗世のことを切ってしまえる、と言うのならそれもまた極端が過ぎる極端なのだが、「木星」はそれくらい極端に読んでしまってもいいような気がする。とにかくこの曲はただただ「あなた」への想いにぐっと特化していると考えてもいいだろう。

 と、最初はその読みだけしかしていなかったのだが、落ち葉は「二人の恋愛の中での嫌な思い出や忘れてしまいたい失敗や失言」である気もしてきた。順風満帆に行く恋人達などそうそういない。軽はずみなことを言って気分を害したり、相手が信じられなくてすれ違ったり、不安でやきもきしたり、程度は様々だが傷や痛みと言うものは必ずある。そういったものは「あなた」との恋愛を神聖化したい気持ちからすれば「邪魔」だったり「嫌い」だったりするだろうけれど、ちっぽけな時間を生きるあたしからしたら、忘れてしまいたい思い出だって他の思い出と負けないくらい「綺麗」なはずなのだ。
 最初は前者の読みしか考えていなかったのだが、木星がとにかく「あなた」に特化し純度を高めた曲だとすると「あなた」以外の現象を(それこそ、日常から生じる「邪魔」でどうでもいい出来事を)持ち込むことはないんじゃないだろうか、と思えてきたので、後者の方が読みとしては比較的妥当かも知れない。続く「下を向いてしたたる汗は」に見える「下を向いて」が何を指しているか、それはこの「落ち葉」をどう読むかで若干変わってくるものなのだが、おおむね「嫌なこと」であったり「苦しいこと」と読んでいいと思う。続く「したたる汗」は、そんな苦しさのもとであっても、「あなた」への想いや熱は確かに生じる、それを表現してのものである、と個人的には読みたいところだ。
 この前半部を締める「忘れてはならない暑い思い溶かす」だが(多分暑いは熱いと読み替えて支障ないはずだ)「溶かす」と言うのは意味としてはおそらく、粉を液体に溶かしていくような「混ぜる」ことなのだと思う。体の中に「あなたへの好き」とか「一緒にどこまででも行きたい、果てたい」とかと言った「忘れてはならない暑い思い」をもっともっと体に沁み込ませていき、そういう気持ちを更に高めていく。もっともっと「あなた」に焦点を絞っていくような狙いが見て取れる。

■眠りの信頼
 どんどんと「あなた」への気持ちを高めていって、二番のサビではどんな想いが綴られているのだろうか。そう思って聴いていくと、「あなたは優しい人だからあたしは手も足も絆も委ねよう」と言う一文にそう来たかと言う衝撃を受けざるを得ない。そこまで言うか、と言う驚きだ。ここまで相手に全てを託しているフレーズはなかなかないのではないだろうか。全てをあなたにあげると言うも同然であり、一番前半やCメロも合わせて考えるとやはり究極の表現である気がするし、続く「始まりも終わりも朝も暗闇も必ず2人で迎えよう」も合わせると、ここが二人の行きつく先の終着点であるようにすら思う。

 さらに極めつけは最後の「だから話して そしてくたびれてもう一度眠ろう」だ。「シアワセ」の最後でも「これが幸せ 今の幸せ ついて行くわ 眠ろう」のフレーズがあるが、「一緒に眠る」とは考えうる限り究極の愛情表現の一つではないだろうか? 無防備なところをさらけ出しているのもあるし、一緒にいることで眠れるだけ安らかな心持になれることを保証している。直前の二つのフレーズだけでもお腹いっぱいなくらい「あなた」への信頼(というか心酔?)が見て取れるのに、ここでこんなのを出されては更にお手上げだ。「だから話して」と相手にも何か言葉を求めているのも好きなのだが、それが霞んでしまうくらいの強烈な愛だ。「くたびれて」と言う表現にはお互いいろんなことを話し、最終的に話し疲れて寝てしまうと言うストーリーが見えて微笑ましくもある。
 だがそこに確かに息づいているのはあたしの狂おしい、切ないほどあなたを希求する想いなのだ。つくづく「木星」にあるエネルギーの莫大さにおののくばかりである。



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