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形あるものはなくなるけれど -aiko「洗面所」読解-



■はじめに
「洗面所」は二〇〇四年九月一日に発売されたシングル「花風」の二曲目に収録されているバラードのカップリングナンバーである。aikoの真の魅力が発揮される魔窟とでも言うべきカップリング群の中で、特別人気が高いというわけでもないだろうが、個人的な観測では「好き」と言っている人が結構多く見受けられる。aikoもaikobonライナーノーツですごく歌詞も好きですねとお気に入りであることを話しているのだが、そのわりに、初披露のLLP9から十年以上のブランクをおいて、先日好評の内に終了したLLP19でやっと二度目の歌唱となってたりもする。ファンの方の喜びもひとしおだっただろう。
 簡単に曲のあらすじを説明しておく。洗面所にあるガラスのコップが割れたことで、かつてのあなたとの愛しき日々も消えていくことを、何度も「解ってるんだ 知ってる」と覚悟してきたはずなのに、あたしは改めて痛感してしまう。かつて「あなたの傍にいたいと泣いた」くらいのあたし。今でも愛しき日々の痕跡は残っている。いつか彼との思い出を微笑みながら話せる日が来たとしたら、きっとその時はもう一度あなたのことを恋しく思うのだろう……と言う、時系列的には別れの後を描いた小品である。
 aikobonライナーノーツで「すごく歌詞も好きですね」とあることは先述したが、そこで「切ないですね」と言い切られているように、別れの後の切なさを無情に、けれども優しく包みこむ時の流れと共に閉じこめた一曲であると思う。aikoは「きっと別れた人のことを思い出しながら、思い出話を友達と笑いながらしたときは、絶対またその人を懐かしく思ってる自分がいる」と考え、その「思ったことがちゃんと曲に書くことが出来て、よかったですね」とも語っている。またこれは当時のインタビューか何かでも言われていたので覚えていたが、実際に洗面所で出来た曲であり、ガラスのせっけん置きが割れたことに由来しているともある。「「こんなにあっけなく壊れてしまった……だけど、人の気持ちもそうやなあ…」って思って出来ました」と話しているので、一番と二番で込められた想いや狙いが違うことから、ある意味では二倍楽しめる(?)曲とも言えよう。(余談・そういえば、どこが出典かはとんと覚えていないが、「ガラスのコップが割れるくらいで曲が出来るなら苦労はしない」などと誰かから言われていたらしい(千葉さんから??)が、この曲ではなくて「明日もいつも通りに」の方だったかも知れない(水道の出が悪くなっただけで曲が出来るなら以下略))

■「割れた」ガラスのコップ
 ところで今回洗面所を読解してみようと思ったのは、久しぶりにライブで聴いたからということ以外に、aikoがツアー中、宿泊先にてまさしくこの歌詞通りガラスのコップを割って大怪我を負った(のわりに普通にしていたaikoのフィジカルとんでもなく謎)エピソードをMCで聴いたことも少し由来している。
 さてそのエピソードにも関係しているのだが、今回の読解にあたって、一番の歌詞を読んでいて「「割れた」んじゃなくて「割ってしまった」んだろーがよ」と罵りたくなってしまった。しかしふと、待てよ? と思うところがあった。あくまでネタかつ軽はずみな発言として思いついたものだが、意外とこの曲の大事なところを突いている気がしないでもない。
 曲が出来たきっかけであるガラスのせっけん置きの破損は、aiko曰く「割ってしまった」とのことなのでaikoの不注意やうっかりによって起こってしまったことである。けれど事実とは異なり「洗面所」の歌詞においては「ガラスのコップ」が主語となり「割れた」と言う自動詞としての表現が選ばれている。あたしはあくまでその出来事を客観的に捉える立場にいるだけだ。
 文脈からするとなんとなく「ああ、あたしが割ってしまったんやろうなあ」と察することが可能ではあるし、それが間違っているとは思わないし、ずっとそういう文脈だと思って曲を聴いてきた。これからもそう聴いて問題はないと思うし、私自身そう聴いていこうと思っている。しかしこの表現によって、読みようによっては「何か不測の事態(地震など)によって引き起こされた事象(たとえ「あたし」の動きに起因するものであっても、直接的にではないもの)によって(惜しくも、残念ながら)割れてしまった」と読むことも決して不可能ではないのである。そしてむしろその読みの方が、この「洗面所」の歌詞世界にむしろ合致しているような気もするのである。当然のことながらあたしはガラスのコップを大事にしていたのであろうし、割るつもりなんてさらさらなかったのだ。けれどもガラスのコップはそんなあたしの想いとは裏腹に、手の届かない遠いところに自分から行ってしまったのだ。
 と言うことをさりげなく前提に置いて、読解を始めようと思う。

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