■あなたの背中を押す想い
 遠く離れているあたしとあなただ。世界は止まらず進み続ける。あたしもそのことを了承している。それでも、たとえ届かなくとも、あたしはある言葉を胸に灯す。aikoが「目には見えない相手との絆みたいなものが絶対にあるはず」とライナーノーツで語ったように、その絆を通して言葉はあなたへと届くかも知れない。いや、届く。
「きっとあなたはきっとあなたは/あなたを越える日が来る」──夢を抱き、夢を語り、夢に挑み、夢に落ち込み、夢に涙した様々なあなたを想う。そのあなたの姿はきっとまだ、あたしの目の届かないところで健在なのだろう。けれどあたしが大人へと変わっていったように、あなたも強く逞しく変わっていっているはずだ。今でもなお落ち込んでいることもあるだろう。涙することだってある。だけどいつかきっと必ず、あなたはあなたと言う輝きの向こう側に行ける。
 あたしの選ぶ言葉は断定の形をとっていて、そこに宿るのはaikoの言う通りの強い気持ちだ。辛いことを跳ね除けて、前へ進んで行ける強さはあなたにもあるし、あたしにもある。「そんなあなたをそんなあなたを/今でも想っています」と綴られているが、もはや恋愛とは次元を違えている。相手に向けられる想いは一番Aメロで記した通り純粋な応援の気持ちであり、尊敬の念だ。そして想うと言うことはほぼ信じていると同義だ。曲中のあなたを通り越して、リスナーである私達の背中も、強く信じる想いが押してくれているような気がする。四月と言う別れと旅立ちと始動の季節に、これ以上ない応援歌でもあるのだ。

■そしてまた日々が始まる
 四月の時間はたゆまなく流れ、やがて来る五月へと人を運んでいく。四月と言う限られた一ヶ月の終わりはすぐ来てしまう。その流れの中、離れてはいるけれど、「あなたもどこかで同じ時を生きている」とあるように、あなたとあたしは同じ世界を生きている。互いにどこかまだ切なさと悲しみを残しているかも知れない。だけど、あたし側はその寂しさや切なさを胸に残しながら──aikoがライナーノーツで語っていたように胸の内に秘めながらも、あなたのこれからを優しい、穏やかな気持ちで応援していく。強い心で、強い信念で。
「季節は巡るひと粒 赤い実を落として」と続くが、おそらく赤い実とはあなたとあたしの恋愛のメタファーだろう。二人の恋愛と言う実は実りきらずに落ちてしまったし、世界と時間は残酷なまでに、そんな落ちたもののことに慈悲の一つもかけずに進んでいく。
 でもそれは、他でもないあなたの為だ。「あなたを待ってる 変わらずにこれからも」と、世界の方から終わることもないし、時間も季節も勝手に止まったりしない。それはある種の優しさであって救いであろう。何度でもやり直すことが出来るし、あなたが諦めない限り、夢はそこにある。あなたがいて、そして世界も季節もそこにあるのだから。
「季節はまた来る あなたにもあたしにも」と言うフレーズでこの曲は締めくくられていく。しばし立ち止まった時間はもう終わってしまって、きっと雨が上がっていて、大人のあたしはいつもの日常に戻っていく。
 そっけないと人は言うかもしれない。残酷と怒るかも知れない。けれどそうではない。そうではないのだ。aikoが歌での表現に「どこか淡々としてはいるけど、でも、細く長く遠くまでちゃんと思いが届くような感情」を乗せていることからも、そしてCメロのフレーズからもわかる通り、あたしはあなたのことを信じているのだ。それこそがこの曲で描かれている、穏やかな「強さ」なのだ。

■終わりに
 あなたがあたしのことをどれだけ想っていたか、どんな風に想っていたか。それこそが永遠の秘密であると二番Aメロの部分で触れたが、そんなことも大人になった、この「4月の雨」時空のあたしには些細な問題で、言ってみればもはや関係のないことなのかも知れない。大事なのは、離れていても一緒の時間を生きているあなたを、同じ空の下で生きているあなたを、今でも大切に想っている。応援している。あなたがあなたを超えていく日を信じている。「4月の雨」は恋愛を超えた、そんな変わらない強い想いを描いた曲なのかも知れない。
 そして先述したが、Cメロの部分はあなたを通り越してリスナーの背中を押すようにも聴こえる。四月とは出逢いだけでなくむしろ別れが後を引いているような季節であることは冒頭の方で少し述べた通りだが、その別れの余韻の中で足が踏み出せなくなっていたり、落ち込んでしまっている私達をそっと慰め、励ます意味合いもこの曲には籠められているのかも知れない。aikoが季節を象徴する曲を作りたいと意欲的に考え、季節に合うよう先行配信と言う形を取って私達に届けてくれたのも、もしかしたらそんな狙いがあったのかも知れない。
 そして、そして。離れていても同じ空の下を、同じ季節を、同じ時間を生きていくあたしとあなたはどこか、それぞれの日常を生きながらもお互いに想い合う私達とaikoの関係性にも似ている。aikoが語った「目には見えない相手との絆みたいなもの」は、私(私達)とaikoの間にもあると信じていたい。いや、信じるのだ。信じよう。私達もまたaikoを想うことで「辛いことをはねのけてしまえる」強い力を貰っているのは事実なのだから。
 4月の雨。曲調はしっとりと穏やかで切なさと寂しさを宿しながらも、それを覆すくらいの揺るぎない強さと確かな愛が籠められている深い一曲である。

(了)



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