次回のおはなしは愉快な話 -aiko「予告」読解と考察-



■はじめに
「予告」は2017年11月29日に発売されたaikoの33枚目のシングルである。イントロを始めとして各所に現れるの「とぅっとぅる・とぅっとぅる」のメロディが印象的なこの一曲は特に何のタイアップもなく発売された曲で、タイアップが当然の昨今にしてはわりと珍しい一枚となっている。
 のちに詳しく見ていくが、言い切りや断定の歌詞がしなやかに力強く感じられる非常に前向きな曲で、落ち込んでいたりだらっとしている自分に元気をドカドカ注ぎ込んでくれるような、非常に楽しく明るく、聴いていて踊り出したくなるような一曲である。


■ここから抜け出すために
 曲が出来た背景はaikoのインタビューを読むと一目瞭然である。RealSoundのインタビューを引用しよう。

「ワンコーラス分ができたのは去年の末(2016年末)か今年の頭(2017年頭)やったと思います。(※筆者注:aikoの曲は千葉Pに出す前は1番までしか作られない。了承を得た後に2番以降を制作する。「湿った夏の始まり」PR時期のラジオ出演の際にもそう言っていたので、予告発売当時は勿論、現在も変わらない制作方法と推測する)その時、精神的に堕落しすぎてたんですよ。「こんなんでいいのかな?」って思いつつも、動き出すための原動力もないしっていう」

 aikoさんのパワーの源であるライブもそのタイミングにはなかったし、と返すインタビュアー。五ヶ月に及ぶホールツアーLove Like Pop Vol.19がちょうど終わった頃で、ライブもなければ今のようにラジオの収録もない(隔週のネットラジオ・あじがとレディオが始まるのは「予告」が発売される頃、2017年11月)一気に走りぬいて、急に出来た空白の期間。ライブ活動に精を出していた反動でだらけきっていたと推測するのはそう難しくない。

「そうそう。「私、大丈夫かな?」とかいろいろ考えたりもして(笑)。でも、そういう状況がほんまにイヤになって、自分自身が底抜けに元気になれるような、そして聴いてくれる人も元気になってもらえるような曲を作ろうと思って書いたのがこの「予告」だったんですよね」

 TV LIFEのインタビューではこんな風に語っている。

「私は基本的に家に引きこもっているのが好きで、精神的に堕落しすぎる瞬間もあったりするんですよ(笑)。人とコミュニケーションをとる唯一の場所がライブっていうくらい。なので、そんな自分を奮い立たせるために書いたのがこの曲やったんですよね。自分自身が底抜けに元気になりたいなって。それに加えて、聴いてくれた人も元気になってくれたらいいなっていう願いもありましたね」

 インタビュアーはサビの「あたしだけの道をあたしは知っている」の部分に言及し、「グッと胸に突き刺さりました」と話し、aikoはこう答えている。
「そのサビのフレーズを一番重く受け止めているのが私自身なんですよ。知らず知らずのうちに周りに頼ってしまうところも多いんです。いつしか自分の人生に関しても誰かが道を作ってくれるかもしれないとどこかで思うようになってるのかなって」
(でもそのままではダメだと)
「そう。自分のことは自分で決めて、その上で楽しく生きていきたいなってすごく思うようになったんです。そう思えるようになったらちょっと気持ちが楽になったんですよ。自分がいいと思ったらそれでいいんだなって、ちょっとふっきれたというか。この曲はそういう自分の中の小さな変化もあって生まれたのかもしれないですね」

 自分の人生に関しても、誰かが道を作ってくれるかもしれないとどこかで思うようになってる、と言う部分に、あのサビのフレーズにはそんな背景があったのか、と深く唸ってしまった。誰かに頼ったり、道が出来るのを待っているのではなく──そうしていると、生きる気持ちがどんどん萎えていってしまうから──自分で決めて歩き出し、走り出す。人によってはしんどいことかも知れないが、やってみると意外と気持ちが楽になるし、吹っ切れる。aikoが言うとなるほどそうかも知れないと思えてくる。
 オフィシャルインタビューではこのように述べている。

「私自身、“でも”とか“だって”という感情が生まれて立ち止まってしまうことがよくあるんです。精神的に堕落しすぎて動けなくなってしまうこともあるし。でもそんな状態を抜け出して前を向いていきたいと強く思ったからこの曲を書きました。気持ちを奮い立たせてくれる、自分にとっての道しるべになるような曲を作りたいなって」

 自分にとっての道しるべ。発売した当時から思っていることは、この曲はaikoの哲学のようなものを感じるなということなのだが、それもあながち間違っていないのかも知れない。

「最近は自分がいいと思ったらそれでいいんやなって思えるようになったところもあって。ちょっと気持ちが楽になったんですよね。だからこそ自分のことは自分で決めて、今まで以上に楽しく生きていきたいなって思えるようになったんだと思います」
「(中略)例えば、“満員電車はイヤだけど、ドアが開いた時に吹き込む風がちょっと気持ちいいな”とか、そういう日々の小さな喜びみたいなものを一瞬でも感じられるきっかけに、この曲がなったらいいなって思いますね」

 自分だけでなく、聴いてくれる誰かも元気にして、気持ちを楽にしてくれる。aikoから生き方のほんのちょっとしたアドバイスをもらってしまった、そんな感じがする。
 ここまでのインタビューを読んでいて思うに(まあ一聴しただけでもわかるのだが)「予告」は恋愛を題材にした芸術作品と言うよりかは、もっと根本的な、aikoが他の誰でもなく自分自身の為に作った、「生きるため」の曲なのだろう。
 そしてこの曲はaikoにとって生きる糧であるライブの喜びもダイレクトに注入された曲となっている。発売前に行っていたLove Like Rock Vol.8の興奮が冷めやらない時期にこの「予告」は完成したのだ。

「影響はあったと思いますよ。ツアーが終わった後に2コーラス目の歌詞を書き、レコーディングをしたので、ライブで感じたことがけっこうダイレクトに出てるかもしれないです。<真っ最中の真ん中は愛おしい>っていうフレーズは、ライブをしている時の花道をイメージして書いたところもあったので」(RealSoundインタビューより)
「私の中にもライブのイメージはありました。この歌詞のように、がむしゃらに突き進む感覚っていうのは、ライブに来てくれたお客さんがいるからこそ抱けるものでもあるんですよ。自分にとってのライブという場所は今までにも増してものすごく大事なものになっているし、そこにある快感は他では絶対に味わえないものなんです。それを今年は『Love Like Rock vol.8』を通してたくさん経験することができたからこそ、こういう曲を作ることができたんだろうなとも思いますね」(オフィシャルインタビューより)

 収録の際もこのような様子だったという。
「コーラスやフェイクもレコーディングの日まであまり考えずに行きました。スタジオブースで思いついたことを入れてみようと思ってやりました」(RealSoundインタビューより)
「レコーディングのときはミュージシャンの方々も楽しそうに演奏してくださいましたし、私も思いっきり楽しく歌えました。なのでみなさんにも楽しく聴いていただけたらなって思います」(TV LIFEインタビューより)

 全体的にとても楽しそうな演奏に唄い方でいかにもライブのようだなと感じていたのだが、なるほどやはり、aikoの方もライブっぽさを意識してレコーディングしたようだ。聴いているだけで気持ちが上向いてくるので、簡単にライブに行けたような気持ちになるし、またライブに行きたいなという気持ちになる。
 なんて書いていると、aikoの狙い通りまんまとこちらも元気になっているのがわかるだろう。そんな「予告」の歌詞の中では、一体どのようなことが描かれているのだろう。



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