■あたしの世界はあたしが決める
 まず一番Aメロ。「目が覚めれば世界は変わる 昨日の孤独と今日の自由」だが、「世界は変わる」と言い切りの形がずばっと出てくる。ところが実際には世界は全く変わっていないのである。RealSoundのインタビューを引用しよう。

「<目が覚めたら世界は変わる>って言うのは、みなさんありませんか? 昨日のショックなことを引きずって次の日が来ること。「寝て起きたら変わってたらいいな」って思うけど何も変わってなくて、と言うか自分の気持ちが変わってないんですよね。あの感覚が本当に嫌なんです。ヤル気スイッチがほんまにあったらいいですよね(笑)」

 そう。変わっていない。嫌なことを忘れたくて一旦眠るのだが、目覚めた後のどんよりとした気持ち、あれはなかなか辛い。状況が逆転した夢を見てあーよかった! なんとかなった! とか思ったのならばさらに辛い。
 しかし歌詞の上では「世界は変わる」と断定している。それは「変わっていたらいいな」という思いが根底にあるからであり、考察するならば、「世界」が変わっているか決めるのは──いや世界の“在り方”を決めるのは「あたし」であって、ここではあたしがそう言い切っているから、どんなに現実がクソであろうが堕落しきった状況であろうが、そんなの関係ないのである。決めるのはあたしだ。何気ない歌い出しだが、とても強いフレーズである。
 そして続く「昨日の孤独と今日の自由」であるが、あたし自身、目を覚ます前は孤独だったのだろうが自由、と言うポジティブな方向に切り替わる。自由というのは何にも縛られていない分、孤独なのかも知れない……と突っ込めばそれはその通りなのだが、歌詞の上では「自由」にスポットが当たり、孤独と比べればポジティブになっている。世界は変わった、我は自由だ。どんどん前向きで強い気持ちが、あたしを押し出していく。
 続いて「スイッチを少しだけひねれ 明日への希望 未来のあたし」であるがこの「ひねれ」と命令形で書いているのが巧い。スイッチをひねるのは自分だ。自分が自分に命令するのだ。ひねったことで希望が生まれ、やがては未来の自分へと繋がっていくものになる。Aメロの時点でこれでもかと、ぐんぐんあたしはあたしを押し上げていく。
 Bメロはこんな風に綴られる。「夢などいくらでも見れば良い何度も初めての顔で逢おう」。夢はいくらだって見てもいい。何度だって、同じ内容だって。四十代のaikoがこのフレーズを歌うことの意義の大きさを考えてしまうのだが、「何度も初めての顔で逢おう」と歌えるのは、その夢はいつまでだって飽きない、色褪せないものだということだ。初めての時の気持ちを忘れないようにする、あるいはいつだってなんだって、年齢が高かろうがどうだろうが関係なく、初めての時のように楽しめばいい。「あたし」はそんなことも肯定する。
「後ろ前逆に着たシャツを笑ってね」はオフィシャルインタビューで語っていた「日々の小さな喜びみたいなもの」のことであろう。日常の中にある小さな可笑しみや笑いや喜びを愛そう。それは無駄でも意味のないものでもなく、人生を豊かにしてくれるものだ。そしてサビ前、「次回のおはなしは愉快な話さ」と綴られるのだが、まさに自分で自分のこれからを“予告”している。“決定”しているのである。自分でこう! と決めたらこうなる、そうなるのだ。自分が全ての権限を握っていて、誰かに決められるものでも、左右されるものでもない、ということだ。


■今日と言う煌めきはまるで流星のパレード
 サビは「予告」と頭にタイトルそのものがストレートに入って綴られる。「予告/あたしだけの道をあたしは知っている/変幻自在振り返れば綺麗」──メロディも楽しく揺れ動いて思わず縦ノリで踊り出したくなるここで、あたしはあたしを励ますように歌う。
 あたしだけの道。今は見えなくても、たとえ本当は迷って悩んでいても、ちゃんと見えてくる。何故なら他ならぬ「あたし」自身が知っているのだから。いろいろ曲がりくねって、迷い道やより道が長くとも、遠い未来、どこかで振り返った時、その道は歌詞の通り綺麗に、まるで流星のパレードのように見えることだろう。誰かが押し付けたものでもなく、なあなあに従って進んでいったものでもなく、自分で決めて自分で作って自分で進んでいった道だ。それはどんなに愛しいものだろう。
 だから、迷っても悩んでも大丈夫なのだ。「選べないよ ずっと だけどそれでいい」と歌うように。いっぱい道が見えているのか、あるいは暗闇で道自体が見えていなくて選べないのか……もしかしたらあまり良くない道を選ぶかもしれない。そんな不安もあるだろう。
 だけど大丈夫。それでいいのだ。「きっとあたしのあたしが知っている」と、迷いや不安もまるっと包み込んでくれる。あたしのあたしとは……誰なのか。未来のあたしか、それとも「あたし」の中にいるもっともっと深い存在のあたしなのだろうか。何であれ、迷っていようが不安でいようが、あたしは結局は、長い目で見れば正しい道を選ぶと言うことだ。
 とにかく「自分が選んだこと」をものすごく肯定してくれている。これほど心強い曲があっただろうか。aikoで元気の出る曲、出来れば最近の曲で、と言うオーダーをもらったら迷わず差し出したい一曲である。



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