■躍動する夏 沈む夏
 aikoの夏の曲をざっと見てきたわけだが、内容としてはどのようなものに分類されるだろうか。
 夏は生命力に溢れ、あらゆる動植物にとって活発な季節である。「何かが始まり、何かいいことが起こる」ことを示唆するわくわくした季節としても優れているだろう。そういった点で選別するならば「あったかい夏の始まりそうな この木の下で結ぼう」と歌う「二人の形」や恋の予感を感じ取る「夏が来る手前の 冷めた風が首をさらった」と歌う「星のない世界」の二曲だろうか。また「恋の涙」も、「街を埋め尽くす桜の花」よりも、おそらくは何かを期待して「夏を待」っているあたしが描かれている。「恋のスーパーボール」はあなたへの想いを持て余している女子と恋のボルテージが高まっていく中での夏といったところなので、何かが起こりそうな夏に選別したい。「帽子と水着と水平線」も似た理由でここに入れておこう。
 単純にポジティブで善良なイメージの夏という点でより分けると、夏にマフラーするくらいラブラブなという意味でネーミングされた「夏にマフラー」はいい意味での夏を示しているし、特に恋の困難を感じさせない、うまくいっている雰囲気の「シーソーの海」などもいい夏のイメージだ。また活発な夏のイメージで言うと心象表現として用いられている「夢見る隙間」もここに分類したい。
 一方で、そういった一般的な夏のイメージとは反する夏もまたaikoの中では多く描かれる。停滞や失恋や別れなどが主題となるが、真夏の失恋を歌う「アスパラ」に、楽曲自体は明るめだがその実歌詞は孤独を強いられる「キラキラ」もそうだ。歌詞と曲調が正反対になっている「あなたの唄」「雲は白リンゴは赤」もそうだし、私が最初に聴いた「花火」もまた、恋心を打ち明けるかどうするか苦悩する女子の心情を歌ったものだった。「最後の夏休み」もこれから始まる夏休みを前にして「あの子」に会えなくなることと、「あの子」に自分の秘めた恋心が伝わってしまってどうしよう、という二重の苦しみが前提となっている。切なさが溢れ夏に向かいたくないという気持ちを見いだせる「夏服」もここの分類になるし、恋が終わった後の「夏バテ」「ぬけがら」もここだろう。
 それから派生した、夏の終わりや儚さ、あるいは何かの終わりを示唆する曲達もある。「シャッター」「線香花火」「September」そして最初に挙げた「夏が帰る」も言ってみれば夏の終わりの歌なので見方を変えればここに属することとなる。
 夏は子供達には長い夏休みがあり、お盆休みがあり、海に山に花火にお祭りと楽しいイベントが多い分、それが終わる反動が大きいのかも知れない。また、日中はうだるような暑さで強い陽射しに溢れているが、日が沈んで夜が深まれば自然と涼しくなるし(と言ってもここのところ熱中夜が多すぎるが)闇も昼と相対的に見るとどことなく濃く感じてしまう。
 そんな風に、夏は表側の主張が強すぎるために、裏側の主張もまた強くなってしまう。夏に限った話ではないが、動が激しいために、それに引っ張られて静もまた自然と強くなってしまうのだ。ポジティブとネガティブが両立するのが夏の特徴と言えよう。「あなたの唄」で「この夏は崩れるか それとも愛を生むか」と歌われていたが、このフレーズが夏という季節の本質を端的に表しているように思えてならない。
 動と静、光と闇の両立。それはaiko自身も感じていることだった。06年のオリコンスタイルで一ヶ月の間、週刊でaikoをインタビューしていく特集があり、その中でこんな風に語っている。

「自分の中で勝手に連結しているイメージがあって。まず、aikoの夏のイメージって“最高と最悪をいちばんリアルに感じられる季節”なんですよね。晴れてるし、暑いし、開放的で楽しいことも経験できる。でも、楽しいことをたくさん経験してきた季節だからこそ、1人の夏を過ごす時は、楽しかった夏を思い出して辛かったり寂しかったりするし…。
 そういう夏っていろんな場所で生まれてますよね。例えばお祭りって、その最中は楽しいけど、帰る時のシビアな顔ったらないですよ(笑)。まさに最高と最悪が共存してる季節やなって思って…」

「最高と最悪を一度に思い描きどうにかなってしまいそうよ」とは「ビードロの夜」のワンフレーズであるが、考えてみれば、常に「終わり」を意識し、感じ取るアンテナの精度がバカ高いaikoが夏のそういった面に気付かないわけがなかったのである。
 それは音楽にしてみるならば――暗い曲調で明るい歌詞は少し難しいが、明るい曲調に暗い、切ない歌詞は成り立つ。それが出来ていて、なおかつaikoの曲でひときわ夏を感じられる一曲がある。先ほど引用したインタビューもその曲に纏わるものだ。二〇〇六年七月、「彼女」の発売に先駆けて発売された「雲は白リンゴは赤」である。

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