■もっと詳しく突っ込もう
 ではここに出揃った二十六曲を詳しく見ていきたいと思う。各曲、以下の四点(実質三点)に注目する。

①どういう状況で、またはどのような場面、背景、設定で掛けているのか(掛かってきているのか、掛かってきていたのか) もしくは、どのような会話か。
②電話が掛かってくることはどのように捉えられているのか。またどのような意味、あるいは目的、理由があると思われているのか。
③掛けること、電話をすることはどのように捉えられているか。またどのような意味、あるいは目的、理由があるのか。
④電話をしている「あたし」と相手はどのような関係か。

 ②と③だが、ほぼ全ての曲がどちらか一方となっており、実質三項目がポイントとなる。

I’m feeling blue(あたし一方通行の電話も今日で5回目)
①恋人同士かそれ未満の友達との会話。しかし、どうも一方通行の話となっている模様。
③「どこかへ連れていって」と言いたい、あなたに気持ちを伝えたい為。会話がしたい。
④恋人同士(?)であるが、「あたし」の方が片想いのような状態

二時頃(真夜中に始まる電話)
①歌詞にある通り真夜中。題名の通り午前二時頃。
③「あなた」との特別な時間。「声を聴くだけで幸せ」
④恋人同士かその手前。しかし「あなた」には「受話器の隣」で寝息を立てている「Tinyな女の子」の存在があった。目には見えずとも、そのことを察したあたしは「あなたを忘れる準備」をしなければならない。「二時頃」については昨年掲載した考察の方も参照されたし。

アイツを振り向かせる方法(ダイヤル回して)
①フラれて二年経っているが、果敢に「アイツ」にアタックしている。しかし表面上は「素知らぬ顔して」なので、直接好きだと電話で告白しているわけではない模様。
③自分がまだ相手のことを好きだとそれとなく伝えるため。
④アイツはあたしのことをフッたが、あたしはまだ心のスミでアイツのことを気にしている。故にアタックを続けている。なおaikoが人生で初めて作った記念すべき第一作目であり、その時点で既に電話が登場している点、やはり評価に値すべきだと感じる。

悪口(夜の長電話)
①夜の長電話。ただし例として挙げているので、曲中の会話が電話でのものかどうかは、はっきりと判断出来ない。
②あたしを繋ぎ留めるもの。あたしを拘束する為、とも言える?
④友達同士だが、相手は「あたし」のネガティブなことばかりを聞きたがり、「あたし」はそれにまいってしまっている。「悪口」については、本研究と同時掲載の読解の方も参照されたし。

Power of Love(寂しくなった時電話するわ)
①歌詞そのまま。寂しくなった時、あなたと喋って元気を貰うために電話する。
③あなたからの温もりや愛で寂しくなった心を癒すため。
④「あたしたちに敵う人はきっといないね」と歌わせる程のラブラブカップル

脱出(用件がないと電話しちゃいけない?)
①用件はないけど電話してきた。声が聴きたいのだ。
③「あなたの声が欲しいのよ」 あなたと話したい。それだけだ。
④あなたがいるから好きになったんじゃないか、とやや逆ギレ気味になっているあたし。あるいはあなたのことが好き過ぎるけど、あなたの方はそうでもない、ような。温度差のあるカップルと言ったところか。(aikoもライナーノーツで「逆ギレしている」と語っている)

おやすみなさい(二人を繋ぐ一本の波)
①お互い合意の上で別れる為の通話。先がないことが読めている(ある意味嘆きのキスに通じるところがある)
③二人の関係を終わらせる為。最後の電話である。
④恋人同士だが、別れるところ。aikobonライナーノーツ曰く、「もう努力しても変わることが出来ない」関係。

あなたの唄(今はもう受話器持つ手すら)
①関係が終わるか終わらないかの瀬戸際の電話。怯えている感じ?
③ちょっと前までは普通の恋人同士の何気ない楽しい通話だったろうに、今や「受話器持つ手すら躊躇して根性なくて」と歌われるほど。電話での会話も関係の終わりを招きかねない? 自分達の関係をなんとか保とうとするのに必死な電話。だが「躊躇して根性なくて」とある通り、及び腰である。
④関係が終わる、破局を迎えつつある。実際二番以降では別れているのである(あなたのいないこの☆)

バスタブ(すぐ電話して謝ろう)
①思わず相手を傷つけてしまったことを入浴中に深く反省し、謝る為の電話。
③傷つけたあなたに謝る為に掛ける。関係を修復する為と言える。
④恋人、と言うよりは何となく友達関係のような気がする。それも女子同士だとなお良い(筆者の単なる願望)

彼の落書き(明日こそは電話のベルが)
①なかなか来ない彼からの電話。あたしはそれを毎日待っている。
②待望のあなたからの電話。とにかく嬉しい! が、あくまで歌詞の上では希望的観測でしかない。
④あたしの片想い。恋はまだ始まっても終わってもいない。「彼の落書き」については以前掲載した読解を参照されたし。

白い服黒い服(こんな時間に掛けてくるのはあなたしかいない)
①会話を楽しむための電話。「こんな時間」と言うことで夜遅くか深夜かと思っていたら、aikobonライナーノーツによるとなんと早朝(午前六時)であった。
②とても嬉しい電話。曲中の二人は互いに掛け替えのない存在である。「左の耳が熱くなってしまう前に/一つの山を越えて笑えます様に」と続くので、そう長く話さなくても、すぐに相手の不安や悩み事をぱあっと払い、お互い笑い飛ばせるようでいたい、と思っているらしい。
④曲が出来た経緯からも明らかであるが、恋人ではなく友人。人生のあらゆる時に共にある存在である。

天の川(電話してね 今夜も)
①夜の電話。相手に自分が今日どのように生きたのか、手応えを届けたい。
②「してね」とあるので相手からの発信の模様。相手に自分の存在をはっきりと伝えるための電話。これは推測だが、遠距離恋愛と言う背景があるかも知れない。
④恋人同士。きっとうまくいってるはず。

明日もいつも通りに(受話器のままでさようなら…)
①とうに別れてしまった二人、その破局後の最後の電話か? 「謝らないで」から察するに相手の方は何か未練や悔いを感じている模様だが、それにかえって疎ましさを感じているように読める。
③表面上だけ見れば、単なる味気ない連絡手段のように思える。ここで「受話器のまま」に着目すると、電話の特性の一つである「離れたところにいる」と言うことが、皮肉にも二人の気持ちが修復不可能なくらいに離されていることが察せられる。電話を切ってしまえばなおさら断絶のメタファーは強くなり、悲しいまでに、二人はもう戻らない、ということを表しているのではなかろうか。
④恋人同士だが別れてしまった。けれど相手が謝ったり、あたしの方も「本当は大好きなの」と残った気持ちを歌うように、切なく、名残惜しい別れである。

ビードロの夜(受話器じゃ気付かれなくていい)
①恋人のことが好き過ぎて、逆に辛くなっているような状況である。「ビードロ色の涙」とあるので、あたしは泣いている。泣きながら掛けている。
③「打ち上げ花火の陰」とあるので、花火大会の待ち合わせか何かだろうか。そうなると歌詞の内容はさておき恋人と連絡を取っている実に事務的な電話であるが、「そっちで鳴ってる救急車」「ビードロ色の涙は受話器じゃ気付かれなくていい」など、相手との「距離」そして「空間の断絶」を意識させる電話、及び表現である。
④あたしが相手のことを愛しすぎていて逆にしんどくなっているような二人。恋人同士だが意識に差があり過ぎる。そんな印象を受ける。

蝶の羽飾り(決まった時間にいつも鳴ってた電話)
①まだ関係が続いていた頃は決まった時間に電話をしていた。恋人同士の大切な時間。
②毎日の中にあなたがいると言うこと。生活の一部だったと言うこと。
④今はもう別れた恋人同士だが、あたしの方はまだ相手のことを好きである。

こんぺいとう(突然かけてくる電話)
①突然掛かってくる電話。歌詞を見るに、あたしの都合には合わせていない?
②あたしから別れを告げる曲なので、鬱陶しいものと捉えられているように読める。
④まさに別れようとしている恋人同士。以前掲載した読解も参照されたし。

まつげ(電話の声 誰よりも愛しい)
①恋人との電話と言う何気ない日常のワンシーン。
③電話に限らないが、ただただ相手を愛しいと思っていて、思わず涙が出るほど。
④おそらく恋人同士。

リップ(偶然にあなたが電話をくれるから)
①あたしが不安に思っている時に、絶好のタイミングで掛かってきた電話。
②不安を打ち消すもので、しかも偶然掛かってくるところに運命を感じてときめく。
④まだ友達のような関係性で、あたしの片想い。

横顔(電話が鳴る度に横顔が浮かぶのは)
①あなたに逢っていない日々に掛かってきたもの。状況的には「彼の落書き」とやや近い。
②鳴るだけで条件反射であなたの横顔が浮かぶ。それだけ相手と繋がることが出来るもの、相手との特別な時間を作れるものである。
④恋に堕ちたばかり。恋がはじまったばかり。まだあたしの片想いだが、不安もありつつも前向きな気持ちに溢れている。「横顔」については、古いものだが「星のない世界」と共に読解している文章があるので、一応参照していただけるとありがたい。

星電話(今繋いだ星電話)
①あなたを想う夜に繋ぐもの。そもそも機械の電話ではないのかも知れない。星電話って何だよ! 現在進行形の恋愛ではなく、おそらく別れた相手との再会が背景にある。いろいろなことを思い出し、夜空を見上げて物思いに拭けっている様子。
③通話はしていないようだ。星を見上げて回想しているよう。
④別れてしまっている恋人同士。本稿後半にて読解する。

水とシャンパン(電話の声は夜を暗くする)
①夜の会話の電話だが、あたしの方はいつ別れる時が来るかと気が気でない。
③楽しいはずだが、さようならと言われるかも知れないと不安である。結果として悩みの種は大きくなっていく。
④一番の時点では別れていないが、二番以降は別れている。構成的に「あなたの唄」に近い(夏発売で三曲目、別れるのではないかと気にしていると言うところも一致)

milk(暗闇でいじる電話のライト)
①掛けてはいない。電話の表示を見ている。おそらく携帯電話の表示。かつ、歌詞中では初めて明確に携帯電話を意識させる描写である。電話じゃなくメールの送信先としても見ている可能性あり。
②③掛けてはいないし、掛かってきてもいないが「何度も見た名前」と続くので掛け慣れているのか、それとも掛けられず躊躇しているのか。電話でなくメールにしても同じことである。
④あなたに片想い中。

Do you think about me?(これじゃ電話も楽しくないよ)
①付き合っているが、あたしはあなたに放置されている状態。電話が楽しいわけがない。
③楽しもうとはしているが、相手に浮気の疑いがあるので楽しくなれない。
④付き合ってはいるらしいが、あなたは「いいこチャン」と仲良くしているくらいあなたに放っておかれている状態。
なお、初のインディーズアルバムとして世に出た「astral box」の一曲目がこの曲。一作目の「アイツを振り向かせる方法」もそうだったが、aikoの恋愛世界にやはり電話は欠かせないようだ。いい意味だろうと悪い意味だろうと。

距離(夜の電話)
①夜の電話。わりと電話での会話が主題、モチーフに近い。
③あなたとの時間を楽しむ為の電話。
④友達以上恋人未満な関係。これ以上距離を縮めたら全てなくしそうな、一見頑丈そうに見えてその実意外と危なっかしい関係である。もしこの先二人の関係に何かしらの変化が訪れたら、この夜の電話もなくなるのかと思うと既につらいし、この先のあたしにとって、電話が相手を思い出させる形見になるのだろうと思うと、なおつらい。

大切な人(久しぶりに電話くれたから)
①離れていた相手(別れた相手?)からの久しぶりの通話
②相手との久しぶりの交流。否応なくあたしに「あなた」を思い出させる。
④昔付き合っていた人。心の中でまだ気になっている人。

4秒(こんな時間まで電話してごめんなさい)
①夜の長電話 ってレベルじゃない。外が明るい。夜が明けるくらいの長電話である。
③「夢中で過ぎていった幸せな時の中」と歌われるほど、相手との通話は愛おしく、また幸せである。その幸福と、限られた時間と封じられた空間の中で、「あなたが好き」だと言う気持ちをなんとか伝えたいが、言葉が見つからない。ちょっと歯がゆい。
④恋人同士か、それに準ずるくらい大切な友達。あたしは相手のことが純粋に好きである。疑いや不安も何もない、幸せな電話の曲である。



 以上、メジャーで発表されている電話が登場する二十六曲をざっと覗いてみた。が、意外と少ないことがちょっと物足りなかったので、インディーズにも足を延ばしてみた。こちらも存外少なかったが、「Do you think about me?」も収録されている「astral box」の三曲目の「How to Love」に見つかった。

How to Love(初めて感じたこの思い 電話するにも戸惑う)
①歌詞の文脈を考えると二通りに取れる。まず「この気持ちをパレットに出せば/きっと赤に染まるでしょう」を考えると、相手と付き合い始めて初の電話か、あるいは告白する時に掛けた電話かな? と読める。Aメロでも「二年前」のことを思い出しているし。
 しかしサビの「だからきっと仲直りしなきゃ」を考えると、謝る為に電話を掛けようとしているけど、勇気が出せないのかな? と読むことも出来る。多分前者の読みが正しいのだろうが。「恋の仕方」と言う題名を考えても、やっぱり前者有利かなと思う。
③初めての電話なら、それこそ序盤に述べたような電話の特性の所為でドキドキする。緊張感たっぷりである。もし告白を伴うとなれば尚更だ。
④付き合って、短くても二年ほど経過している。しかし歌詞によると「仲直りしなきゃ」とあるようにちょっと仲がこじれているようだ。願わくば仲直り出来るとよいのだが……。

 さて以上で終了――としたいが、書き始める前に思い出してしまった。「そー言えば未発表に近いインディーズ曲の「AB型の二人」もあれ電話出てこなかったっけ?」と。
 未発表はもう歌われないに等しいのでここ最近聴いていなかったのだが、急いで歌詞を調べてみると、どぎゃー! ビンゴやんけー! ってかほとんど電話での会話を主題にしていると言ってもいいやんけー!
 ので、おまけのおまけとしてここに収録する。歌詞に関しては各々検索していただきたい。

AB型の二人(三時間半の長いテレフォン)
①夜の電話だろうか。三時間半とは確かに長い。またサビでは「週に一度程度のあたしからのラブコール」ともある。
③「あなたを好きだと気付いた」とあるように、相手への好意を自覚させるもの。気付かせるに十分なものである。
④好きだと気付いたのがこの電話でのことなので、まだ友達同士の二人。「デート気分はあたしだけ」だが、相手も好きかどうかはわからない。まさしく歌詞の通り「あなたの気持ち気になる」だ。


 以上、おまけも含めて二十八曲をざっと参照してみた。aikoの曲は現時点で大体二百曲超らしいが、電話が登場する曲は実にその一割を占めることとなる。
 ところで「AB型の二人」についてaiko、確か何か言ってたなとaikobonのロングインタビューをぺらぺらしていたところ、ヤマハで一年契約していた時に「電話をテーマに曲を書け」と命令されたことがトラウマになっている、と語っているところを発見した。意外だなと可笑しく思うと同時に、トラウマになってる割には結構数あるなあ、と感心してしまった。
 それも仕方のない話かもしれない。時代と共に通信手段が変わってきていると言うことは冒頭に述べた通りだが、aikoももう四十代で、その青春時代はまさに電話か手紙かと言う時代である。「AB型の二人」なんかメジャーで出さないのが勿体ないくらい電話での会話がモチーフになっている曲だし、初めて作った「アイツを振り向かせる方法」にしても電話が出てくるし、初期屈指の名曲「二時頃」も電話ならではの曲だ。aikoの恋愛の原風景、創作の基本に電話と言う装置は最初から備えられ、そこでのコミュニケーションもまたごくごく当たり前に浸透している結果である。aiko自身電話に関する思い出はきっと私が想像する以上のものがあるだろうし、いつでもどこでも、何かがきっかけとなってその思い出を刺激することがあれば、そこからまた、電話の登場する新しい曲は生み出されていくのだろうと感じている。
 それでは今度はこれらのデータをもとに、もっと調査を深めてゆきたい。

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