■いつも以上に綺麗で儚い空
 さて考察に入る。「花風」と違って「青い光」は個人的にひっかかりのある曲なので、そこから展開していこうと思う。そのひっかかりとは、サビで歌われるこのフレーズだ。

 空を見たのは 別に初めてなわけじゃないのに
 何故だかいつも以上に綺麗で儚くて

「いつも以上に綺麗で儚」いのは、さて「何故」なのだろう?
 このフレーズはこう続く。

 それは手を振る君の様で
 突き抜ける程 晴れた日

 このサビの歌詞から読み取れることを簡単にイコールで繋げていくことにする。見慣れているはずの空は、「何故だかいつも以上に綺麗で儚」い空に見えたと言う。そしてそれは「手を振る君の様」なのだ。
 だから、さらに単純にしてみると、「君」=「空」なのだ。「側でいくつもに色を変える君」と言うフレーズからも、朝昼夕夜、晴れ曇り雨雪と、様々な顔を見せる「空」を感じさせる。
 aikobonの「だからこういうタイトルにした」と言う記述によると、aikoの思い浮かべる「高い空」のことがすなわちタイトルである「青い光」のことらしい。青空を「青い光」と表現するのは大変ユニークだと思う。「空」=「君」ならば、「君」=「青い光」でもある。
「突き抜ける程」と言うのは、おそらく宇宙まで突き抜けていく程に青く澄んだ空のことだろう。雲一つない高い空が、曲の頭から既に表されている。aikoが「いつもこの歌からは高い空が浮かぶ」と言った通りである。


■恋をすることで世界は変わる
 主人公である「僕」は初めて空を見たわけではないのだ。見慣れているはずの空が、いつも通りそこには広がっているはずだった。しかしその空が、「いつも以上に綺麗で儚く」見えたのは何故だろう。
 何がきっかけなったかは定かではないが、「空」が「手を振る君の様」(=「君」)に見えたことが理由の一つに挙げられると思う。さらに、大サビ前のブリッジで「僕」は「上手く表現できないけど 僕も同じくらい切ないはずだよ すきだよ すきだよ」と、好意と切なさが重なった「君」への想いを認めている。
「今まで見てきたものが違って見えてくる」とは、単純に言えば「世界が変わった」のである。「青い光」のサビと大サビは「僕」の世界が変わったことを表現している一節なのだ。そして「僕」は、「すきだよ すきだよ」と、君への想い(恋)を認めている。曲のクライマックスでようやく「僕」は想いを告白している。僕は君に恋をしている。恋に堕ちたのだ。
 よく言われることだが、恋をすると世界は変わる。人を好きになり、自分とは違う誰かを想うことで、今までと違った視界を得て、違う価値観を持つことが出来る。一人だった世界はなくなり、別の誰かが確かに存在する世界が構築される。恋をすることで世界が変わるということは「孤独でなくなる」ということでもあるのかもしれない。aikoの「猫」のフレーズに「あなたを好きになった事 あたしが一人じゃないって大事な印になるって知ってた?」というものがあるが、他者への想い(恋と呼ばれるもの)を抱くことは、人が決して孤独ではないと言うことなのだ、と随分と胸打たれたものである。
 筆の赴くまま書いてちょっと脱線したが、つまり、「僕」の世界は「君」への恋によって新しく生まれ変わったのである。大げさに言うならば認識の変化、パラダイムシフトの訪れだ。「青い光」で歌われたのは「空」であるが、「空」以外にも彼に見える様々なものが、きっと変わったのではないだろうか。


■空の意味するもの
 唐突だが私は「空」と言うモチーフが好きである。冬の金沢、荒れた風を吹かす曇天の向こうに垣間見える鮮やかな青に心奪われたり、朝焼けの神々しさに酔いしれたり、夕焼けの茜が見せる果てしなさに身悶えする。ことに星空と朝焼けが私の好きな空だが、でも、やはり空と言えば青空だ。それは格別なものだろう。
 やはりいきなりだが、空は無慈悲である。泣きたいことがあってもむしゃくしゃしたことがあっても、空はしらん顔で空としてどこまでも広く、果てしなく広がっている。その高く青い空は突き放すようでいて、だが、どこか優しい。そして、どこまで行っても続く空は、表情そのものと言える多くの天候をもたらすもののはずなのに、それなのに、いつもどこでも変わらないものの象徴にも思える。「花風」も「あなたもこの空の下」と歌うが、空の下に私達は無限の距離を超えて繋がることが出来るし、時にはあらゆる垣根を越えて平等にさえなれる。
 その存在の大きさは、無慈悲なのに確かに安らぎをくれる気がする。「空」を歌った古今東西の曲に私が弱いのはその為だろう。「青い光」が好き、大切に思える理由の一つに含まれる。
 では、「空」、天上に、おはしますものは何か。
 それは大抵、「神様」である。私はこう先述した。無慈悲だが、優しい。それは「神様」と似ていなくはないだろうか。
 さてここで「青い光」が意味するものをイコールで繋いだものをもう一度書くと、「青い光」=「空」で、「空」は「君」である。「君」は、言ってみれば、「僕」にとっては「神様」にも似た存在、なのである。
 何も「君」が全知全能の神様と言っているわけでない。どちらかと言うと「心のよりどころ」や「希望」「尊い存在」「求めてしまう存在」として「神」を比喩的に使っただけだ。しかし、「君」への恋により「僕」の世界は変わった。世界を変える程の存在は、もはや「神」にも等しい。ちょうど私にとって、aikoがそうであるように。
 よく曲を評価するときに「神曲」と言われたりするし、「青い光」も多くの人にとって神曲であろうが、「君」が「僕」にとっての神様にも等しいと言う意味で、「青い光」はまごうことなき「神曲」なのかもしれない。
 そう言えば、先に引用したが、このフレーズはaiko曰く「作った時はホントに突然ふって湧いてきたんですよ。サビから出てき」たものだそうだ。これはある意味、天からの授かりもの――「天啓」言わば、神のおつげのようなものだろうか。さすがにそこまで書いてしまうのは、やや脚色が過ぎているかしら。


■祈る者――prayer
 大サビ前のブリッジでは、「切ないくらい」とあるように、胸を優しく締め付ける切なさを聴く者に感じさせる。時には涙腺をも刺激し、涙を流す者もいるだろう。「とても尊くてせつなくて清いみたいな部分」と、Bメロ全体を指してaikoもそう言っていた。

 上手く表現できないけど 僕も同じ位
 切ないはずだよ すきだよ すきだよ

「僕も同じ位」と言うからには、「何度も何度も確かめるように好きだと言う」「君」もまた「切ない」はずである。切なさを感じているから、何度も何度も好きと言うのかもしれないが、これはaikoの「恋は楽しいけど切ないもの」と言う恋愛哲学が端的に表されているように思う。好意の裏に、それと同じくらいの切なさが隠されていると言うことだ。ちょうど成功の裏に汗と涙があるように。
「僕も同じ位」と言うから、一応「僕」も切なさを感じてはいるが、ひょっとすると僅差で「君」の方が切なさの量も、好意の量も勝っているのかもしれない。「花風」で距離について書いたが、「僕」と「君」もある一定の距離が置かれているように思う。それは恋愛を否定したり失わせたりするものではなく、どこかアキレスと亀のようなものの距離だ。
 どれだけ想っても、君には敵わない。aikoがよく「aikoの方がもっと好きやで!」と言ったりする、それの逆である。「桃色」の「だけどあなたの気持ち どうもあたしに負けてるわ」の逆である。だが、お互い想うことをやめないし、まして恋を終わりにすることもない。永久に続く追いかけっこにも似た恋が、「僕」と「君」にはある。
 先ほど「神様」について書いたが、そういう面もあって「君」は「神様」なのだ。人は神様にはかなわないし、届かない。「僕も同じ位」のくだりから、「僕」にはどこか、そんな、ささやかな諦観があるようにも伺える。……なんて、否定的な書き方をしているが、ジャア何、「君」と「僕」は結ばれないのか? と、「青い光」を否定したいわけでは毛頭ない。
「僕」の「すきだよ すきだよ」と平仮名で表されたところが、私は好きである。aikoが意図的に平仮名にしたかはそれこそ神のみぞ知ることだが、「僕」と言う一人称が引き出す無垢さに、この「すきだよ」が相乗効果をかけてくる。無垢は磨きに磨かれて希有な清らかさになっている。aikoは「尊くて」とも言っていたが、そう、尊ささえも生んでいる。aikoの歌い方も相まって、まるで神をどこまでも慕い続ける、敬虔なprayer(祈る者)を想わせる。断定が多かった「花風」とは違い、「青い光」は願いの形での言葉が多い。「どうか明日もちゃんと笑っていて欲しい」や「側でいくつもに色を変える君と出逢いたい」などであるが、それもまた、「君」が「僕」より上位の存在であることを感じさせないだろうか。「心の行き先決めつける事 僕は出来ない」からもそれは感じられる。
 どこまでも慕い続ける。それは、どこまでも好きであることと同義だ。どこまでも好きであることは、奇跡にも等しい。「好き」と言う気持ちを持続させるのは簡単そうに見えて難しい。ましてや限りなく無垢な好意など、はたしていくつこの世界の、一体どこにあると言うのだろう? だが、この「青い光」の「僕」は歌うのである。上手く表現出来ないけど、「君」と――そう、「神様」と同じくらいの「切なさ」も「すき」も、全て自分の中にあると歌うのだ。
 それが決して追いつけない、一歩先を常に行く「青い光」であろうと、まっすぐに目指し続ける。光でふと思い出したが、私が一番好きな曲「スター」の「真っ白な世界を歩いていこう あなたはいつまでもあたしの光」も、きっと「青い光」のこの部分と同じ意味を持つのだろう。

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