■ものも食べられないほどの
 aikoはこの名曲「ひまわりになったら」をどのように作り上げたのだろうか。しかし何分初出がメジャーデビュー前であるため、当時のaikoの言に当たるのはほぼ不可能だ。そこで今回は「二人」で再収録された際のインタビューを当たることとする。
 オリコンスタイルで、aikoはこんなことを述べている。

「作ったときは、すごい切なかったんですよ。好きな気持ちを抑えようと思って作った曲やから。
 今は楽しかった思い出として残ってんねんけど、その当時は、すごい辛かった。もう戻ることはムリってわかってるから、一生懸命、好きって気持ちを違う感情に変えようとしてた。まだ好きで、切ないけど、絶対に前みたいな二人には戻れないんだって」

 作った時すごく切なかった、辛かったと言うことは、ひょっとすると実際の失恋を引きずっていたのかも知れない。駆け出しも駆け出しの頃なので、今とは違ってaikoの実体験から膨らませて作っていたのでは、と言う推測はそれほど行き過ぎたものではないと思う。
 それにしても「好きな気持ちを抑えようと思って作った曲」と言う暴露、この時点で既にもう辛さMAXである。「ひまわりになったら」全体から感じられる、好きであることを諦めきれないやるせなさはここから発せられているのであろう。
「もう戻ることはムリってわかってるから」「絶対に前みたいな二人には戻れないんだって」とaikoが言うのだから、曲中の二人も前のような関係には──ただの友達にも、恋人同士にも──戻れないと言うことだろう。「一生懸命、好きって気持ちを違う感情に変えようとしてた」と言うaikoの吐露には、読むだけで辛かった日々のことがひしひしと伝わってくる。
 と同時に、それをからっと爽やかな曲調で歌えると言うことの凄まじさにも唸るものがあって、aiko恐るべしと思わざるを得ない。「辛い内容こそ明るい曲調で」とはaikoの作風の一つであるが、原点とも言えるこの曲からして既にそうだったのだから、作風と言うよりももっと生々しい、aiko自身の性格と言ってしまってもいいのかも知れない。
 インタビュアーも当時の彼女を慮って「すごい頑張って乗り越えようとしてる曲で…」と話す。aikoはこう返す。

「ん、がんばった(笑)!冷凍ミカンとヨーグルトと水しか喉も通らなかったけど(笑)
 作ってから13年経ってる曲なんですけど(作者註:aiko20歳の頃で、1995年)聴くと当時のことを思い出しますね」

 笑いごとにしているが正直シャレにならない。食欲を根こそぎ奪うほどの失恋……いや失恋はいつでも誰に対してもそれくらいのものなのだろうが、改めて「ひまわりになったら」のベースになっている恋がどれだけaikoにとって深く大切なものだったかが偲ばれるところである。


■太陽なんかじゃない
 曲のタイトルとモチーフになっているひまわりについて、インタビュアーは「ひまわりって明るいイメージを抱かせそうですけど、この曲では切なさのモチーフになっていますね」と聞く。aikoはひまわりについてこんな解釈を話している。この内容もこれぞaikoと言えるような解釈で、私はこのaikoのひまわり観の所為で「ひまわり=元気」のイメージがあまり抱けなかったりする。

「ひまわりって、実はすごい弱い植物で、切っちゃうとすぐ枯れるし、花が重たい分、太陽が沈むとすぐにシュンってなっちゃうんです。
 で、太陽が出てくると、また元気になんねんけど、それを繰り返して夏の終わりに枯れるという。
 だから、私の中では、ひまわり=元気ってイメージはないんですね」
「好きな人を一生懸命探してその方向を向いて、咲いているイメージ。その人=太陽がいないと生きていけない植物っていう。
 その人にとってかけがえのない太陽にもなりたいっていう感じで、タイトルにひまわりってつけました」

 ここで話すひまわりのネガティブなイメージこそ、「ひまわりになったら」の「あたし」であろう。おそらく一般的に広まっているひまわりのポジティブなイメージが投影されるのが「あの子」であり、この曲であたしが目指す「ひまわり」でもある。「その人にとってかけがえのない太陽にもなりたい」からタイトルにひまわりを入れた、と言う理由はなかなかに大きい。「あたしはいつまでもあの子のひまわり」と歌ってはいるが、「あたし」はまだ明るい意味での「ひまわり」になり切れていない故のタイトルでもあるのだろう。


■十年経っても
 もう一つ別のインタビューも見てみよう。切り抜き所持のため雑誌名は不明だが、同じく「二人」発売時のインタビューからの引用となる。

「大人になったら気持ちって変わるのかな?って思ってたけど、10代の頃と全然変わらないんだなって。
 歌いながら、そういえば、冷凍ミカンと水しかのどを通らないぐらい、恋愛に打ちのめされたときもあったな~とか(笑)」
「いろんな記憶が鮮明によみがえってきて、もちろん今となってはいい思い出なんだけど、あの当時の自分も、今の自分の心の中にちゃんといるんだなって思いましたね」

 インディーズシングルのカップリングとして正式な音源が世に出てから10年が経っていた2008年当時。30代になったaikoが歌っても、気持ちは離れることなく、曲と言う形でずっと新鮮なまま残されていた。「恋愛に打ちのめされた」ことも「今となってはいい思い出」と言うように、その当時から時が経ち、aikoの立ち位置も変わり、まだ何者でもなかった頃に終わった恋愛はあくまで遠い記憶、終わってしまったもの、ではあるのだろう。けれど隠したいものでもなく、忘れたいものでもない。まるで本当の永遠を手にしたかのように、自分の中に変わらずにあることにaikoは改めて気付かされたのだろう。
 それが歳をとると言うことであり、生きていく、と言うことなのかも知れない。その頃の自分の気持ち、その当時の自分が心の中に生きていることは、歌手でありアーティストであるaikoの強みとなっていることだろう。



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