■終わらないで欲しいな
 二番Aは眠りに就こうとする一番Aとやはり対になるように、目覚めを舞台にしている。これはライブが終わった後の描写で、aikoがインタビューで触れていた「我に返るスイッチ」が入るか入らないかの頃を描いているのだろう。「明日の朝 目が覚めたときに すべてが嘘になってしまわない様に」と言う僅かなフレーズだけでも既に切ない。あの楽しかった瞬間が嘘のように霞んでしまう現実がまたやってきた。嘘じゃない。本当だ。本当にあったことだ。そう言いたくなる。
 ここだけ見ればファン目線での歌詞なのだろうか、と錯覚する。しかし続くのは「焼ける喉に張り付いた欠片」と言う表現で、「焼けた喉」はまさに舞台で歌っていた語り手(aiko)のことだろう。「張り付いた欠片」とはある種アスリートでもある歌手らしいフィジカルな表現で、歌って一晩経った喉の何らかの様子を表現しているのだろうか。あるいは舞台からファンの皆に呼び掛けた言葉の名残を表現しているのか。どうであれそれは昨日のことが「嘘ではなかった」「夢ではなかった」と言う証拠だ。「君の言葉を抱きしめてるよ」の「君の言葉」も同様で、具体的なものを挙げるならライブのアンケートだったり、プレゼントボックスに入った手紙やプレゼントだったり、勿論、昨日のライブの思い出や皆からの歓声もあるだろう。それらが嘘ではなかったと歌い手は抱きしめるし、ファンも昨日の思い出を、aikoの声を抱きしめる。ここはファンと歌い手が混然となった箇所と言えそうだ。

 二番Bの「始まりの音が 心搔き乱し戸惑い/終わりの音よ 聞こえないでと耳を塞いだ」も個人的には特に好きなフレーズだ。始まりと終わりの対句になっているここは「始まりしか知りたくない 終わりなどいらない」と歌った「彼の落書き」を思い出すようなフレーズだし、恋愛として読むならば、まさにその「彼の落書き」のフレーズのように「恋が始まったなら終わって欲しくない」と言う切実な願いとして取れる。
 だがこれはaikoが「ライブって始まる直前はすごい緊張してるし、歌い出したときも楽しんでもらえるかなって不安でいっぱいなんですよね。それが1個目か2個目のMCでやっと少し安心するんですけど、そっからあと数時間で終わってしまうことが寂しくなるんですよ」(What’s In?より)と語っていたことを読めば、まさにその言葉がそっくりそのままフレーズとして表れた部分だなと思わざるを得ない。二番はひょっとするとファン目線に視点が移動するのだろうかと思っていたが、やはり主軸はあちらにあるようだ(勿論ファンもこんな気持ちでいるわけだが)
 夢のような時間は嘘ではない。けれど必ず終わりが訪れる。次に繋げる為にも、未来へ進む為にも。それをわかっていてもなお、「終わらないで欲しいな」と願わずにはいられない。人間誰しもが持つそんな切なる気持ちを感じられて、つい目頭が熱くなってしまう。

■下を向いたらさようなら -宿命のような恐怖-
 二番のサビ前半が、個人的にこの「君の隣」で一番好きな箇所だ。「両膝にこの手をついて下を向いてしまったら/もう君を見つけられない様な気がして」とは、なかなかにショッキングなフレーズではなかろうか。
 これは一読してネガティブの極地にあるaikoだとわかるのだが、aikoが常に戦っている恐怖を表しているのではないかと思う。完全に私の考えでしかないのだけれど、aikoは一回でもファンにそういうところを見せたらもう駄目だ、引退ものだと思ってしまうのかも知れない。そんな弱気、恐怖、何度舞台に上がっても、何度克服しても必ず彼女の前に立ちはだかってくる宿命のライバルような、大いなる何かなのだ。
 こういった恐怖心は大なり小なり、普通だったら隠しておきたい、なかなか表現出来ないものだと思うから、歌詞に出してしまうのはかなり思い切った行動だと思う。それに「君を見つけられない」と、あくまで主観で書いている。私達がそんなことないよ! と思っていても、色々どうのこうの言っても、aikoの中でそう思っている──aikoの中の決まり事と言えばいいのか、かっちり決まっているのだ。言ってみればこれは、悲しいけれど私達でさえどうしようもないことなのだ。

 が、今はそれを何とかしようという問題ではない。あくまで事実として述べられたことを受け止めるよりない。重要なのは、「下を向きたくない。それはこういう怖さがあるから」と言うことを歌詞に書いた、いや、より正確に表すなら「書けた」と言うことだ。
 なんだったらこんな風に文字にすらしたくないと思っていたかも知れない。本当に、普通だったら到底出来ないことで、なかなか言えないことなのだ。aikoの「やっと言えました」と言う言葉には、ファンの皆への愛だけでなく、弱音も恐怖もはっきり書けたことが含まれてはいやしないだろうか。これが出来たのも十五年歌手活動を続け、ライブをし続けてきたからこそだろう。それを想うと泣けてくるし、抱きしめたくもなるのだ。
 そんな弱さ、恐怖をさらけ出したうえで彼女はこんな風に星に祈り、願う。「空駆ける箒星を見上げ願う/ねぇこのままそばにいて」と。流れ星に祈られる切ない願い事。歌詞の通り「このままそばにいてもらいたい」のは勿論だけれど、前段の内容を考えるなら「たとえ下を向いたとしても、どうか傍にいてください」と言うのがより本当の願いなのだろう。──そんなの答えは勿論イエスしかないじゃないか。そんなこと程度で離れる私達なんかじゃ、決してないのだから。



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