■「木星」を読むにあたって
 そもそもaiko自身、「この曲をそんなつもりで作った気持ちはなかった」とaikobonにて話している。彼女は「なんか涙が出るとかなにか感情が沸き上がるというよりかは、真っ白になる感じ」と語っていた。続いてライブでの「真っ白になる」ことを例に出しているが、ライブと言う全力でぶつかるその場を例にしていることで考えられるのは、「真っ白になる」と言うことは「ものすごい力が一瞬に凝縮されている」と言うことなのかも知れない。
 それは、言うなれば「強烈な愛の形」であろうか。私が「木星」に取り掛かり始めた当初は「死にましょう」や「心中」に引っ掛けられて、木星に在るものは「死へ向かうエネルギーの強さ」なのかなと考えていた。その善悪や是非はともかくとして、純粋に死んでもいいと思えるくらい、と言うか死を厭わないエネルギーの強大さと言うのは、古今東西の例を見るに計り知れない。でもそうではないのかも知れない。aikoの言葉に加え歌詞も踏まえて考えると、むしろ死は見当違いの意見なのかも知れない。そう思うようになってきた。
 Pauseでインタビュアが「<木星に着いたら2人をはじめよう>ってことは実際には2人は結ばれていないわけですよね?だから届かない思いを描きたかったのかなぁと思ったんですけど」と言ったことに対し、aikoは「あぁそうなんですか?…いやいや、そうなんですか?とか言ってしまった(笑)」と、それこそ見当違いなことを言われたような、何だかとんちんかんなことを言われたような反応を示している。これに続いて彼女は「なんかねぇ、甘いとか丸いとか優しいとかいう感情ではないですよ」とそれこそびっくりな発言を返し、「もっとこの人と心中してもいいとかっていうぐらいの感じ」とまで言っている。

 ここから考えられるのは、「木星」が描き出そうとしている世界は、感情がどうこうという次元の話ではないと言うか、なんだったら恋愛と言う話ですらないのかも知れないということだ。「心中してもいい」と言う表現は(何せaikoなので)極端なのだが、実際のところ実はものすごくシンプルな話なのかも知れない。aikoが「恋人だけじゃなくて、私が信頼してる人であればいいかも」と言っているように恋愛だけじゃなく、言ってみれば「人を好きになる気持ち」の究極の姿、最大限までに焦点を絞って純度を高めたものなのでは? と思うのだ。「人と人との繋がりの極限の姿なのかな」と解釈したインタビュアにはaikoも「そうですね」と返している。そう考えてみれば、歌詞がすごくシンプルで、とにかく「あなた」にぐっと焦点を絞っていることにも納得がいく。
 そうなのだ。曲調は静かで歌詞にものすごく勢いがあると言うわけではないのだが、穏やかなれども「あなた」以外のことを考えておらず、全力でぶつかっていく、と言うよりは、どちらかと言えば「吸い込まれていく」感じが「木星」には密かに込められている。二番サビもCメロも、本当に全部を相手に捧げていて、それこそが全てに勝る是であると信じて疑わない。そんな印象を受けてしまう。そうなると「一緒に死にましょう」くらい行き過ぎたことを思っても、そんなにおかしくないと思えてくるのだ。

 歌詞の描き出す世界としては、去年解釈した「カブトムシ」と系列が同じような気がする。ストーリーがどうこうとか恋が成就するしないとか別れた別れないとか、そんなくだらない次元の話ではなく、その人以外に何もいらず、何だったら共に死んでもいい、そう思うくらいの強い愛の印象をリスナーに抱かせる、一種の絵画的表現になっているように思う。「真っ白になる」強烈さ、「その人と共に果てる」とまで思わせる純粋さ──つまりはそれが、「木星へ行く」と言うことなのかも知れない──を浮かばせられたらそれで十分。そういう意味でも、無駄な要素を削ぎ落し、シンプルに描くことで曲としての純粋さや強度を上げている。個人的にはそう解釈したい。

 それから、実にaikoらしいと思うのは、そんなシンプルな歌詞に「この人と心中してもいい」くらいの気持ちが実は込められている(書いた当時はそうでもなかったのかも知れないが、結果として)というところだろう。他の人からすると何てことない表現や言葉にこちらが思わずドン引きしてしまうくらいの熱量や気持ちがねじ込まれている、あるいはaiko自身がそう捉えてしまうのはやはり彼女らしい「極端さ」であり、aikoと言う作家が持つ「強烈さ」を見て取れるだろう。aikoファンは多かれ少なかれ、彼女のそういったところに強く惹きつけられているのではないだろうか。そう考えると「木星」もまたコアな愛好者が多いのではないか? と思わせられる。(余談だが、デビュー21周年を迎える今の地平からしてみると「秋 そばにいるよ」自体がなかなかにコアと言うか通な位置にあるアルバムのように思える。述べられるだけの根拠はないが)



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