■あたしはあなた次第
 思った以上にaikoそのものであるらしい「恋愛」。早速歌詞を読み、読解を進めていこうと思う。時々は考察めいたものも入るだろう。
「「明日は晴れでいて欲しい」/あなたの言葉ひとつひとつで 今のあたしが出来てると知った時/「ダメならいっそ雨で流して欲しい」/毎日胸の中は形も色も音すらも変える」というのが一番Aメロだが、晴れがいいのか雨がいいのか、あたし自身はどっちを選ぶのかと言うと、どっちでもない。「あなたの言葉ひとつひとつで 今のあたしが出来てる」とあるようにあなた次第なのだ。あなたが晴れを選ぶなら晴れがいいし、雨で流して欲しいなら雨だ。
 自分がないのか、主体性がないのかと少し呆れるが、あなたに好かれる為なら自分も失くす。それが恋する乙女というものなのかも知れない。しかしながら、結局はあなたに固執する「自分」に振り回され、苦悩の日々を送ることになっているような気もして皮肉を感じてしまう。それに加えて、晴れなのか雨なのか、どっちつかずのこの一連はころころ変わりやすく、一つに定まらない複雑なあたしの心中ともリンクするような段落にもなっている。恋愛の不安な時期の渦中にいる時そのもののようだ。


■まとめるのには早すぎる
 Bメロ、「くるくる廻る雨雲に乗って あなたの可愛い睫毛に止まる」はある意味この曲の中で最も詩的で長閑なフレーズかも知れない。雨雲とあるので何となく雨粒が落ちてくるイメージが浮かぶのだが、続くサビに平和な雰囲気は残念ながらあまりない。
「ねぇもっともっともっとあなたが不安になる位/あたしが言葉や態度を操れる様になればいいのに」と早速あたしの抱える苦悩が表される。「あなたが不安になる位あたしが言葉や態度を操れる様になればいい」ということは、あたしの方だけがあなたの行動で一方的に不安になったり恐れたり、やきもきしたりしている……少なくとも表面上はそう見えるということだろう。違う人間だから当然と言えば当然だが、あたしにあなたの気持ちはわからない。
 本当はあたし同様不安になったりしているのかも知れないが、人の心なんて読めない、わからないのだ。きっとあたしにはあなたはいつも平気な、なんてことない人のように見えているし、あたしに対して特段強い気持ちも抱いていない。とにかくそう思い込んでしまっている。それがきっとあたしにとっては腹立たしく見えて「不安になる位言葉や態度を操れればいいのに」と思ってしまうのだろう。
 本当に、恋愛の辛いところ、悲しいところはここだ。相手は自分ではない。気持ちなんてわからない。だから不安になるし焦るし臆病になる。違う人間だから、一度も同じ気持ちなんて共有できないのかも知れない。結局は全て、まやかしなのかも知れない。
 ただ、それでもあたしはあなたを諦めていない。この恋を全部ご破算にしようとはしない。「「辛い」の一言で纏めてしまえば簡単さ」──そう、恋とは「辛い」の一言だけで片付けられない、清算しきれないのである。この歌詞に出てこないだけで「辛くないもの」も沢山あるかも知れない。苦しいし、ムカつくし、けれども「好き」な気持ちだって確かにあるのだ。嗚呼なんと恋愛とは複雑なものなのか。
 サビの最後はこうである。「こんなに逢いたい」と。辛かろうが何だろうが、最終的に全てはこの想いに尽きるのである。言ってみれば一番全体がこの言葉を引き出すための序詞であり、全てがこの想いの修飾でしかない。
 会ってしまえばどうとでもなる。きっとぱーっと晴れていく。多分あたしはそのことをわかっている。今はまだそんな程度でしかないなら、たとえ複雑でとぐろを巻いている気持ちが胸を支配していても、まだまだ別れる気配には程遠いだろう。



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