■強く在れる証
 自分を真っ白にして、好きという気持ち一つをスタート地点に生まれた。それはバックボーンこそ肉付けが不足しているものの、決してか弱いものではあるまい。否、それどころか他のaiko曲よりもずっとずっと深く、重く、強い芯のある想いが貫かれている。最初に聴いた時に感じた衝撃はその想いが齎したものだったのだろう。

「この人さえいてくれれば明日がどうでも構わないっていう。それぐらいの揺るぎない思いが奥のほうから湧いてきたんです。すごく強く深い気持ちを書いたものだし、私にとっては不安な時に歌ったら強くなれる、お守りみたいな曲になりましたね」(雑誌1より)

「“あなたに出逢えた事があたしの終わり”っていうフレーズがあるんです。この人さえいてくれれば、明日がどうでも構わない……っていう。それくらいの強くて揺るぎない想いが、自分の中から出てきたんですよね」
「心をぺりぺりっとめくって、自分の核心に行き着いたというか。すごく強い深い想いを書いてるから、何かに挫けそうだったり不安になったときに歌ったら、強くなれる気がする。そんな、お守りみたいな歌ですね」(雑誌2より)

 強い想いは人を支える。「一つだけでいいの 変わらないもの」と歌詞にある通りだ。どういう逆境にあろうとも相手への想い一つありさえすればいいのだ。見返りを求めていないのも強い。事が恋愛でなくてもあらゆる場面で通用する考えだ。勇気を与えてくれる、まさにaikoの言う通りお守りだ。
 だからこその“終わり”という表現なのかも知れない。その想いが自分の存在証明であり、究極のところそこで言葉が尽きてもいい。まさに「終わり」だ。そこから先に言葉は続かない。その想い一つあればいい。全てがそれで満たされているのだから、もはや何を言おうが蛇足である。「明日がどうでも構わない」と言う発言からaikoは世界の終わり的な意味で使用しているようだが、そういう理由で個人的にはゴールやエンドマークと言った意味での終わりの方が相応しい気がする(あくまで個人のセンスの問題ではある)
 その「終わり」と言う表現が出てきたことに対して「自分の核心に行き着いた」と話すaiko。まっさらにした地平から己の深奥に辿り着けた彼女はオリコンで更に細かく語っている。

「“永遠ってあるのかな?”って考えてみたんです。相手の心の中の全部はわからないけど、自分の中にはあると思ったんです。誰かを大切に思う気持ちや心の中で信じるものはある。どこにいても好きな人と通じ合っている気持ちとか、運命はきっとあると思う。もしかして、心の底にある、こういう感覚って他の人たち、ひとりひとりにもあるんじゃないかなって。そう信じたい、自分のことを、この曲を通じて伝えたかったんだと思う……。ってライヴでこの曲を歌った時に気付きました(笑)」

「いろんなものが日々変わっていきますよね。日々生活を重ねていくと、「相変わらずだね」って言われても、5年前と比べてみたら絶対に違うじゃないですか。自分も相手も関係性も……。それでも、心の中で通じ合っている感覚とか、信じている気持ちだけはずっとあって欲しいなって。たとえばね、私、大好きな人に裏切られても、“何かあったんかな”って思うんです。信じる気持ちは変わらないから」

 これらのaikoの言葉を受けて考えると、ひょっとするとこの曲は普遍的なものというか、人間として備わっていて欲しいものや信じていたいものも主題となっているのかも知れない。通じ合う心であるとか、永遠であるとか、あるいは運命と言ったものは時として幻想だと鼻で笑われてしまうものだ。けれどそれを「他の人たち、ひとりひとりにもあるんじゃないかな」と信じるaikoを純粋だと思うし、悪いこととも思わない。私もそうありたいし、出来れば人間皆がそれを信じられたらいい。そう思う。
 インタビュアは「aikoさんの愛はすごーく大きくて純度が高いし、密度が濃いですよね」と話し、それを受けてaikoはこう返す。

「めんどくさいなって自分でも思う(笑)好きな人に求めるものが深すぎて、相手はきついだろうな。恋愛だけでなく、友だちとか、仕事仲間もそう。昔は、人間関係、奥まで行き過ぎて失敗して、“あ、痛い!”っていうのも経験したので。今は仲良くなる時はすごく警戒しちゃうんです(中略)その分、ごく一部のスタッフとか親友とか好きな人には自分を見せるし、ますます濃く重くなっちゃうんだと思うけど」
(そう考えると「あなたに会えたことが私の終わり」っていう詞は改めて深いし、すごくaikoさんらしい歌詞だなと)
「これは、今だからこそ、書けた言葉だと思います。昔なら思いついて書いたとしても、すぐに消していたと思う。“こんなこと思ってないやろ。私には言い切れないよ”って躊躇して。今でも、聴いた人はどう思うんやろうって考えると心がさわさわするけど、自分の中では、ちゃんと思えることだから……こうして曲にしたんだと思う」
「この曲は、自分を真っ白にして書いたんですけど、完成した時に、13年間、やってこれたから苦悩できたし、いろんな戦いも乗り越えることができたんだなって。だから、ずっと続けてこれて良かったと思います」

 深すぎて濃すぎて重過ぎて、aikoの言葉を使うなら「めんどくさ」過ぎて、aikoも判断する通り受け取る側がきつくなったりするだろう。その想いを伝えられる人はどんどん限られていく。それは伝えられる想いの方も同じで、どんどん極限に迫っていくような表現になっていく。「終わり」という言葉が選ばれたのもそういう一面の現れではないだろうか。他のインタビューでも「ギリギリのところに立ってるイメージ」が浮かんだと話しているのだ。
 そして、何度も言うようにこれはリスナーに大きなインパクトを与える、思い切ったフレーズである。それを歌詞に表してもいい、シングルとして出してもいい、歌番組で歌ってもいい、と判断してくれたのはaikoがようやくリスナーに対して、ファンに対して信頼を見せてくれたのではないか、とふっと思うのである。信頼、それがもっと具体的な形で曲として現れるのは「君の隣」なのだろうが、「ずっと」はその伏線と言うか、布石であるように思えてくる。

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