■ずっとを読む
 先述したが、歌詞の出だしがこの曲のタイトルでありテーマでもある「ずっと」である。「ずっとそばにいるから どんな事があっても」と永遠をいきなり誓うのだ。最初からクライマックスと言うか、もはやここがサビと言ってもいいくらいである。あなたへの「好き」だけになったaikoから生まれた最初の言葉がこれだ。永遠はあるとかないとかよく各々の考え方として問題になることがあるが、aikoの中にあったからこそ書かれた言葉であり、aikoは永遠はあると考えている、という証左にもなる。インタビューでも「相手の心の中の全部はわからないけど、自分の中にはあると思ったんです」と話した通りだ。
「あたしに見える世界は あなたも必ず見ている」とひっそりと、どこか慎重に言葉が続く。あなたとあたしは、目線が同じ立場、一緒にいる前提だ。「想いあっていても違うものを見ている」と言うと「17の月」の印象的なフレーズである「あなたはあたしよりうんと背が高いから この道もきっと見晴らしがいいのだろう」を思い出してしまう。以前17の月の読解で「好きだからと言って同じものを見ているとは限らないとaikoはかなり厳しく考えている」とのように書いたし、今でも基本的にそうだと思っている。しかし、今回の「ずっと」は歌詞創作の出発点が他作品とは一線を画しているのは先述した通りである。「好き」だけの気持ちになった「あたし」に不安や疑いや、そう言った冷静な目線が入り込むことが無いのだ。そう信じ切っている。シンプルなフレーズだがとてつもなく強い想いだ。
 続く「優しく笑う向こうに 絶望があったとしたら/全部あたしにください それでも平気だから」も強い想い、揺るぎない愛を誓っている。相手にある見えないものや隠してしまうものもあたしは受け取ろうとしている。清濁全部引き受けようとしている。どこをどう見ても紛れもない強さである。
 一瞬のBメロ(?なのか)では「ここには誰も知らないあたしがいる」と歌われる。これはaikoが語っていた相手の好きだけになった、まっさらになった自分自身のこと、心の奥底を表現しているのだろう。こんなに強い想いがあるということを誰も知らないし、また、あたし自身も、そして書き手であるaiko自身も知らなかった。
 その強大な力が生み出すのがサビの出だし、そしてこの曲の代名詞でもあるフレーズ「あなたに出逢えた事があたしの終わり」だ。もういっそどこかの碑文にしたいレベルで好きであるし、それくらいインパクトがある。前の段落で先述したことと内容が少し重複するが、aikoは「明日がどうでも構わない」と言っていることからやはり世界の終わり、終末をイメージしての「終わり」なのだろうが、私としては物語の終わり、エンドマーク、めでたしめでたしのイメージを持っている。例えるなら白雪姫や眠り姫が王子様のキスで目覚めて物語が終わる、親指姫がツバメに乗って南の国へ行き、花の国の王子様と出逢い結ばれて物語が終わる、と言った感じだ。あとのお話は語られない。あなたに出逢い恋に堕ち愛を誓えたことが生涯のピークなのだ。
 ピークと書いたがこの歌詞でもこのフレーズが最高潮で、と言うかインパクトが持っていかれ過ぎで、続く残りのサビは修飾にしかなっていない、とまで言ってしまいそうになる(書いちゃってるが)「ゆっくり息をする 胸の上耳を置いて」は、相手が寝静まった中、隣にいるあなたの胸に耳を置いて鼓動の音──あなたの音を聴いているようなイメージがあってとても好きだ。そのフレーズや続く「生きてる限り何度も触れて知るの/あなたのあたたかい味 永遠に」はとても官能的な雰囲気に溢れていてaikoのシングル曲の中でも屈指のエロティックさがあると思っている。まっさらになったaikoから精神的なテーマ(ずっとそばにいる)に続いて織り成され、サビとして昇華されたのがこういった肉体的な表現であるのは、触れること、じかに接することが恋愛上、というか人と人との関係において精神的な触れ合いに負けずとも劣らない重要なファクターであることをaikoが強く信じている証だと思う。新アルバム「湿った夏の始まり」のインタビュー等でも「人は人との繋がりをやっぱり求めてしまう」と言った旨を話していたり、アルバムを締めくくる「だから」でも「だからあなたの肌を触らせてよ」と歌っている。aiko的にはきっと永遠観と同様に看過出来ないテーマなのだろう。とてもよくわかる。そしてサビは「永遠に」で閉じられている。「ずっと」で始まり、「永遠」で終わるのだ。なんと濃密な世界であろうか。

■それ一つあればいい
 二番に入ろう。二番も出だしは一番のリフレインで「ずっとそばにいるから どんな事があっても」と始まる。続くフレーズもまた強いというか、世界の真理がさらっと表されている。「明るく見える世界の裏も一緒に行こう」と。
 明るく見える世界とは言うが、基本的に世界は私達に厳しく出来ている。皆誰かを呪い、呪われることで成り立っているような世界だ。万民が平和である場所もないし、光だけが存在している場所もない。明るさの裏には無数の暗闇と血と涙があって然るべきだ。辛くない世界なんてどこにもないのだ。それを承知した上で、その裏側に進むことになっても構わない、一緒にいれたらそれでいい、と歌う。ちょうど一番の「優しく笑う向こう」にある「絶望」とリンクする形なのだろう。やはり清濁全部を引き受けようと誓い、一緒に進もうと言っているのだ。
 世界の裏側、そして人間の持つ裏。続くフレーズは「絶対言えないことも 小さな冷たい嘘も/あなたのかかとに躓き 笑い合えば消えるわ」と言うものだ。これだけ重く強い愛を誓っていても(誓われていても)隠していることや言えないこと等があるだろう。それは「言わなくていいこと」だから黙っているのだけれど、例えば愚痴や憂鬱と言った、相手に対して後ろ暗いことを抱いたりすることも絶対にある。しかしそれもまた、清濁合わせて受け入れるというか、互いに笑い合うことでチャラになってしまう、消えてしまうと言うのだ。
 その絶対的な自信はどこから来るのだろう。その根拠になっているものは何だろう。それは続くフレーズが答えてくれる。「一つだけでいいの 変わらないもの」と。
 変わらないもの。それは端的に言うなら愛だし、相手への想いだろう。aikoは「お守り」と言っていたがまさしくその通りで、強力過ぎるそれは襲い来る困難や不安や迷いなど全て瞬く間に跳ね返してしまう。どころかこっちから食い気味で迫っていって駆逐していくのではないかと思われる。変わらないもの一つあればいいのだ。恋愛でも何でも通用する考え方はもはや哲学である。揺るぎない想いが一つ体の芯として通っていればどんな逆境にでも、荒れ模様でも耐えられるだろう。明鏡止水の在り方で穏やかに過ごせるのではないだろうか。

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